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最高裁昭和48年3月2日第二小法廷判決・民集第27巻2号210頁

2016-11-28

主    文

原判決を破棄し、第一審判決中上告人ら敗訴の部分を取り消す。
被上告人は、第一審判決添付債権目録(第一)記載の上告人らに対し、それぞれ同目録(第一)の各「賃金カツト額」欄(同目録中「現金カツト額」とあるのは「賃金カツト額」の誤記と認める)記載の金額から「認容額」欄記載の金額を控除した残額およびこれに対する昭和三七年四月二一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員、同債権目録(第二)記載の上告人らに対し、それぞれ同目録(第二)の各「賃金カツト額」欄記載の金員およびこれに対する右同日以降支払済みに至るまで右同利率による金員、の支払をせよ。
訴訟の総費用は、全部被上告人の負担とする。

理    由

上告代理人大野正男、同斎藤忠昭、同青木正芳の上告理由について。

論旨は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ)が、労働基準法(以下、労基法という)三九条の年次有給休暇制度とストライキの本質とは両立しえない別個の体系に属するものであつて、労働者は争議行為に使用する目的で使用者に対し有給休暇の請求をすることはできない等の理由で、第一審判決添付債権目録(第一)記載の上告人らの本訴請求の半額および同債権目録(第二)記載の上告人らの本訴請求の全部を排斥すべきものとしたのは、年次有給休暇制度の本質、休暇利用自由の原則、事業の正常な運営と時季変更権の意義の諸点において、労基法三九条の解釈適用を誤つた違法がある、と主張する。
よつて按ずるに、労基法三九条一、二項の要件が充足されたときは、当該労働者は法律上当然に右各項所定日数の年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負うのであるが、この年次休暇権を具体的に行使するにあたつては、同法は、まず労働者において休暇の時季を「請求」すべく、これに対し使用者は、同条三項但書の事由が存する場合には、これを他の時季に変更させることができるものとしている。かくのごとく、労基法は同条三項において「請求」という語を用いているけれども、年次有給休暇の権利は、前述のように、同条一、二項の要件が充足されることによつて法律上当然に労働者に生ずる権利であつて、労働者の請求をまつて始めて生ずるものではなく、また、同条三項にいう「請求」とは、休暇の時季にのみかかる文言であつて、その趣旨は、休暇の時季の「指定」にほかならないものと解すべきである。
また労基法は、同条一項ないし三項において、使用者は労働者に対して有給休暇を「与えなければならない」とし、あるいは二〇日を超えてはこれを「与える」ことを要しない旨を規定するのであるが、有給休暇を「与える」とはいつても、その実際は、労働者自身が休暇をとること(すなわち、就労しないこと)によつて始めて、休暇の付与が実現されることになるのであつて、休暇の付与義務者たる使用者に要求されるのは、労働者がその権利として有する有給休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本的内容とする義務にほかならない。
年次有給休暇に関する労基法三九条一項ないし三項の規定については、以上のように解されるのであつて、これに同条一項が年次休暇の分割を認めていることおよび同条三項が休暇の時季の決定を第一次的に労働者の意思にかからしめていることを勘案すると、労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して右の時季指定をしたときは、客観的に同条三項但書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によつて年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。すなわち、これを端的にいえば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであつて、年次休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない
もし、これに反して、労働者の休暇の請求(休暇付与の申込み)に対して使用者の承認を要するものとすれば、けつきよく、労働者は使用者に対して一定の時季における休暇の付与を請求する債権を有し、使用者はこれに対応する休暇付与の債務を負うにとどまることになるのであるが、かくては、使用者が現実に特定日における年次休暇の承認、すなわち、当該労働日における就労義務免除の意思表示をしないかぎり、労働者は現実に休暇をとることができず、使用者に対して休暇付与義務の履行を求めるには、改めて年次休暇の承認を訴求するという迂遠な方法をとらなければならないことになる(罰則をもつてその履行を担保することは、もとより十全ではありえない)のであつて、かかる結果が法の趣旨・目的に副う所以でないことは、多言を要しないところである。
ちなみに、労期法三九条三項は、休暇の時期といわず、休暇の時季という語を用いているが、「時季」という用語がほんらい季節をも念頭においたものであることは、疑いを容れないところであり、この点からすれば、労働者はそれぞれ、各人の有する休暇日数のいかんにかかわらず、一定の季節ないしこれに相当する長さの期間中に纏まつた日数の休暇をとる旨をあらかじめ申し出で、これら多数の申出を合理的に調整したうえで、全体としての計画に従つて年次休暇を有効に消化するというのが、制度として想定されたところということもできるが、他方、同条一項が年次休暇の分割を認め(細分化された休暇のとり方がむしろ慣行となつているといえるのが現状である)、また、同条三項が休暇の時季の決定を第一次的に労働者の意思にかからしめている趣旨を考慮すると、右にいう「時季」とは、季節をも含めた時期を意味するものと解すべく、具体的に始期と終期を特定した休暇の時季指定については、前叙のような効果を認めるのが相当である。
 以上のとおり、年次有給休暇の権利は、労基法三九条一、二項の要件の充足により、法律上当然に労働者に生ずるものであつて、その具体的な権利行使にあたつても、年次休暇の成立要件として「使用者の承認」という観念を容れる余地はない(労基法の適用される事業場において、事実上存することのある年次休暇の「承認」または「不承認」が、法律上は、使用者による時季変更権の不行使または行使の意思表示にほかならないことは、原判決説示のとおりである)。年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である。
本件において原判決の確定するところによれば、上告人ら所属の事業場たる被上告人(日本国有鉄道)郡山工場において、昭和三七年三月三〇日頃、第一審判決添付債権目録(第一)記載の上告人らは、その有する休暇日数のうち一日分として同月三一日を指定し、同債権目録(第二)記載の上告人らは、同じくその有する休暇日数のうち半日分として右同日の午前半日を指定したが、被上告人郡山工場長は時季変更権を行使しなかつた(その一部については、時季変更権を行使したことについての主張立証がない)、というのである。
これによると、前記債権目録(第一)の上告人らについては、三月三一日の一日分、同債権目録(第二)の上告人らについては、同日午前の半日分の年次休暇が成立したことが明らかである。しかるに、原判決は、上告人らが右同日の勤務時間開始前に、その所属の事業場である被上告人郡山工場以外の場所(宮城県a駅)における集団行動に参加したことが、その参加のためには必要であつた年次休暇の成立を否定する理由となるとするものであつて、その判断は、さきに判示した年次有給休暇の法律関係に照らして、労基法三九条の解釈適用を誤つたものといわなければならず、論旨は、この点において理由がある。
なお、ここに言及を要するのは、論旨も触れるところのいわゆる一斉休暇闘争の場合についてである。いわゆる一斉休暇闘争とは、これを、労働者がその所属の事業場において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱するものと解するときは、その実質は、年次休暇に名を藉りた同盟罷業にほかならない。したがつて、その形式いかんにかかわらず、本来の年次休暇権の行使ではないのであるから、これに対する使用者の時季変更権の行使もありえず、一斉休暇の名の下に同盟罷業に入つた労働者の全部について、賃金請求権が発生しないことになるのである。
しかし、以上の見地は、当該労働者の所属する事業場においていわゆる一斉休暇闘争が行なわれた場合についてのみ妥当しうることであり、他の事業場における争議行為等に休暇中の労働者が参加したか否かは、なんら当該年次有給休暇の成否に影響するところはない。けだし、年次有給休暇の権利を取得した労働者が、その有する休暇日数の範囲内で休暇の時季指定をしたときは、使用者による適法な時季変更権の行使がないかぎり、指定された時季に年次休暇が成立するのであり、労基法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断は、当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきものであるからである。
本件において原判決の確定するところによれば、前述のように、上告人らは、いずれも問題の当日である昭和三七年三月三一日の一日または半日を休暇の時季として指定したが、被上告人工場長は時季変更権を行使しなかつたというのであつて、この事実に本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すれば、優に、上告人らの右時季指定が被上告人郡山工場の事業の正常な運営を妨げるものでなかつたことを知らしめるに足るのである。したがつて、a駅における行動のいかんにより上告人らに別個の法律上の責任が生じうるか否かはともかくとして、その事実は、なんら本件年次有給休暇の成否に影響しうるものではない。
以上により、三月三一日の半日分につき上告人らの年次有給休暇の成立を否定した原判決は違法として破棄を免れず、上告人らの本訴請求はその全部を正当として
認容すべきであるから、民訴法四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    村   上   朝   一
裁判官    岡   原   昌   男
裁判官    小   川   信   雄
裁判官色川幸太郎は、退官につき署名押印することができない。
裁判長裁判官    村   上   朝   一
上告人およびその訴訟代理人目録
福島県郡山市桜木二の一一の二

 

 

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