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最高裁昭和62年7月10日第二小法廷判決・民集第41巻5号1229頁

2016-09-12

主    文

一 原判決中戒告処分無効確認請求、賃金請求及び附加金請求に係る部分を破棄し、右部分につき被上告人の控訴を棄却する。
二 原判決中弁護士費用についての損害賠償請求に係る部分を破棄し、右部分につき本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
三 第一項の部分に関する控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理    由

上告代理人鈴木宏一、同高橋耕、同新美隆の上告理由及び上告人の上告理由につ
いて

一 原審の適法に確定したところによれば、(1) 上告人は、被上告人のD電報電話局施設部機械課に勤務し、同課係員二七名のうちの五名の係員とともに日勤、宿直・宿明勤務の六輪番交替服務という勤務体制に組み入れられ、電信電話機械設備の建設・保全等の現場作業に従事していたが、昭和五三年九月四日、勤務割において日勤勤務に当たつていた同月一七日(日曜)一日につき年次休暇の時季指定をした、(2) 労使間の協議により、日曜、祝祭日の日勤勤務の場合に必要な最低配置人員は二名と定められていた、(3) 機械課長は、当時の成田空港反対闘争の動向、上告人の日ごろの言動等から、上告人が右九月一七日に予定されている成田空港反対現地集会に参加して違法行為に及ぶおそれがあると考え、右参加を阻止するため、上告人の年次休暇の取得をやめさせようと企図して、あらかじめ上告人の代替勤務を申し出ていた職員を説得してその申出を撤回させたうえ、右同日に上告人が出勤しなければ必要な最低配置人員を欠くことになるとして、上告人に対し時季変更権を行使した、(4) 上告人は右同日出勤せずに成田空港反対現地集会に参加したが、反社会的な違法行為には及ばなかった、(5) 被上告人は、右欠勤を理由に、上告人を本件戒告処分にし、同年一〇月二〇日に支払うべき賃金から右一日分五〇九六円を差し引いた、というのである。
そして、原審は、(1) 勤務割を定め、変更することは使用者の専権に属し、使用者は、年次休暇の時季指定があつても、合理的な理由がある場合は勤務割を変更しないことができ、その結果として事業の正常な運営を妨げられることを理由に時季変更権を行使することができる、(2) 上告人が前記九月一七日に年次休暇を取つて成田空港反対現地集会に参加すれば、過激派の違法行為に加わりあるいは巻き込まれることの可能性が高かつたところ、被上告人が、これを未然に防止するために、勤務割の変更、代替勤務者の配置をしなかつたことには合理的な理由がある、(3) 上告人が出勤しないことにより最低配置人員を欠き、事業の正常な運営を妨げることになるのであるから、被上告人の時季変更権の行使は適法で、右同日につき上告人の年次休暇は成立しなかったことになり、本件戒告処分及び賃金差引きは適法である、と判断した。

二 しかし、原審の右判断は、以下の理由により是認することができない。
年次有給休暇の権利(以下、「年次休暇権」という。)は、労働基準法(以下、「労基法」という。)三九条一、二項の要件の充足により法律上当然に生じ、労働者がその有する年次休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右の指定によつて、年次休暇が成立して当該労働日における就労義務が消滅するのであつて、そこには、使用者の年次休暇の承認なるものを観念する余地はない(最高裁昭和四一年(オ)第八四八号同四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号一九一頁、同昭和四一年(オ)第一四二〇号同四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。この意味において、労働者の年次休暇の時季指定に対応する使用者の義務の内容は、労働者がその権利としての休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本とするものにほかならないのではあるが、年次休暇権は労基法が労働者に特に認めた権利であり、その実効を確保するために附加金及び刑事罰の制度が設けられていること(同法一一四条、一一九条一号)、及び休暇の時季の選択権が第一次的に労働者に与えられていることにかんがみると、同法の趣旨は、使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる。そして、勤務割を定めあるいは変更するについての使用者の権限といえども、労基法に基づく年次休暇権の行使により結果として制約を受けることになる場合があるのは当然のことであって、勤務割によってあらかじめ定められていた勤務予定日につき休暇の時季指定がされた場合であつてもなお、使用者は、労働者が休暇を取ることができるよう状況に応じた配慮をすることが要請されるという点においては、異なるところはない。
労基法三九条三項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たつて、代替勤務者配置の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であることは明らかである。したがつて、そのような事業場において、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である。
そして、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところである(前記各最高裁判決参照)から、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないものであり、右時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならない。
本件についてこれをみるに、前記事実関係によれば、上告人が年次休暇の時季として指定した日につきあらかじめ上告人の代替勤務を申し出ていた職員があり、その職員が上告人の職務を代行することに支障のある事情も認められないから、勤務割を変更して、右職員を上告人の代替勤務者として配置することが容易であつたことは明らかであるが、機械課長は、上告人の休暇の利用目的が成田空港反対現地集会に参加することにあると考え、その休暇を取得させないために、右職員を説得して代替勤務の申出を撤回させたうえ、最低配置人員を欠くことになるとして時季変更権を行使したというのであるから、その時季変更権の行使は、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないのになされたものであることは明らかであり、無効といわなければならない。また、上告人の年次休暇の時季指定が権利濫用とはいえないことも明らかである。

三 そうすると、原審が、被上告人の時季変更権の行使は適法であり、上告人の時季指定日の年次休暇は成立しなかつたとしたのは、法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した事実関係及び右に説示したところによれば、上告人の戒告処分無効確認請求、賃金請求及び附加金請求については、これを認容すべきことが明らかであるから、これと同旨の第一審判決は正当であり、したがつて右部分につき被上告人の控訴は棄却すべきであり、弁護士費用に係る損害賠償請求については、更に審理をさせる必要があるから、右部分につき本件を仙台高等裁判所に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇八条、四〇七条一項、三九六条、三八四条、九六条、八九条
に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    島   谷   六   郎
裁判官    牧       圭   次
裁判官    藤   島       昭
裁判官    香   川   保   一

 

 

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