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最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決・集民第211号1頁

2016-11-24

主     文

原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理     由

上告人の上告受理申立て理由について

1 本件は,D興産株式会社(以下「D興産」という。)の従業員であった上告人が,懲戒解雇されたため,当時のD興産の代表者であった被上告人B1外3名に対し,違法な懲戒解雇の決定に関与したとして,民法709条,商法266条の3に基づき,損害賠償を請求する事案である。

2 原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)D興産は,化学プラント・産業機械プラントの設計,施工を目的とする株式会社であり,大阪市a区に本社を置くほか,平成4年4月,門真市に設計請負部門である「E」(以下「センター」という。)を開設した。センターにはセンター長の下に設計者が勤務しており,同6年当時のセンター長は被上告人B2であった。上告人は,同5年2月,D興産に雇用され,センターにおいて設計業務に従事していた。
(2) 同6年6月15日当時,D興産の取締役は,被上告人B1,同B3及び同B2であり,被上告人B1は代表取締役であった。
(3) D興産は,昭和61年8月1日,労働者代表の同意を得た上で,同日から実施する就業規則(以下「旧就業規則」という。)を作成し,同年10月30日,大阪西労働基準監督署長に届け出た。旧就業規則は,懲戒解雇事由を定め,所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めていた。
(4) D興産は,平成6年4月1日から旧就業規則を変更した就業規則(以下「新就業規則」という。)を実施することとし,同年6月2日,労働者代表の同意を得た上で,同月8日,大阪西労働基準監督署長に届け出た。新就業規則は,懲戒解雇事由を定め,所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めている。
(5) D興産は,同月15日,新就業規則の懲戒解雇に関する規定を適用して,上告人を懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)した。その理由は,上告人が,同5年9月から同6年5月30日までの間,得意先の担当者らの要望に十分応じず,トラブルを発生させたり,上司の指示に対して反抗的態度をとり,上司に対して暴言を吐くなどして職場の秩序を乱したりしたなどというものであった。
(6) 上告人は,本件懲戒解雇以前に,被上告人B2に対し,センターに勤務する労働者に適用される就業規則について質問したが,この際には,旧就業規則はセンターに備え付けられていなかった。

3 以上の事実関係の下において,原審は,次のとおり判断して,本件懲戒解雇を有効とし,上告人の請求をすべて棄却すべきものとした。
(1) D興産が新就業規則について労働者代表の同意を得たのは平成6年6月2日であり,それまでに新就業規則がD興産の労働者らに周知されていたと認めるべき証拠はないから,上告人の同日以前の行為については,旧就業規則における懲戒解雇事由が存するか否かについて検討すべきである。
(2) 前記2(3)の事実が認められる以上,上告人がセンターに勤務中,旧就業規則がセンターに備え付けられていなかったとしても,そのゆえをもって,旧就業規則がセンター勤務の労働者に効力を有しないと解することはできない。
(3) 上告人には,旧就業規則所定の懲戒解雇事由がある。D興産は,新就業規則に定める懲戒解雇事由を理由として上告人を懲戒解雇したが,新就業規則所定の懲戒解雇事由は,旧就業規則の懲戒解雇事由を取り込んだ上,更に詳細にしたものということができるから,本件懲戒解雇は有効である。

4 しかしながら,原審の判断のうち,上記(2)は,是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
【要旨1】使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和49年(オ)第1188号同54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁参照)。そして,【要旨2】就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁)ものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。
原審は,D興産が,労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し,これを大阪西労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで,その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま,旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し,本件懲戒解雇が有効であると判断している。原審のこの判断には,審理不尽の結果,法令の適用を誤った違法があり,その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。

5 そこで,原判決を破棄し,上記の点等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄 裁判官 滝井繁男)

 

 

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