残業代請求|福岡の司法書士 にじいろ法務事務所

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神戸地裁姫路支部平成21(ワ)21号平成22年12月8日判決

2016-09-15

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1 請求
原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

第2 事案の概要
本件は,原告が,有限会社溜畑鉄工(以下「溜畑鉄工」という。)に採用され,溜畑鉄工・被告間の業務請負契約により被告高砂製作所(以下「被告製作所」という。)で就労を開始したが,同契約は労働者の供給を目的とするものであって職業安定法44条・労働基準法6条に違反して無効(民法90条)であり,また同目的を有する原告・溜畑鉄工間の労働契約も無効であるところ,原告・被告間には上記就労開始当初から期限の定めのない黙示の労働契約が成立している等と主張して,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。

1 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 当事者等
ア原告は,平成12年5月22日,溜畑鉄工に採用され,翌23日から現在まで,被告製作所において,業務に従事する者である。
イ被告は,船舶及び艦艇の建造,販売,修理及び救難解体等を業とする株式会社である。
ウ溜畑鉄工は,金属プレス加工及び板金プレス加工,労働者派遣事業等を業とする株式会社である。
(2) 事実経過の概略
ア被告は,平成12年ころ,溜畑鉄工との間で,同社を請負人とする業務請負契約を締結した。
イ原告は,上記業務請負契約締結後である同年5月22日,溜畑鉄工との間で雇用契約を締結し,翌23日から,被告製作所にて就労を開始した。
ウ被告は,平成18年3月16日,溜畑鉄工との間で,労働者派遣に関する基本契約を締結し,同月29日付けの個別契約により,同年4月1日より労働者派遣を開始することを決定した。
(乙1ないし3)
エ被告は,溜畑鉄工との間の契約関係を,平成21年4月1日付けで,再び業務請負契約とした。

2 争点
原告・被告間には,労働契約が成立しているか。
(原告の主張)
(1) 原告は,被告・溜畑鉄工間の業務請負契約に基づき被告製作所にて勤務を開始したものであるが,溜畑鉄工の従業員で原告の行う作業を指揮命令する者はおらず,原告はいずれも被告の社員である作業長らの指揮の下で業務に従事していたのであるから,被告・溜畑鉄工間の契約関係は,業務請負契約ではなく,いわゆる偽装請負である。
そして,平成12年5月当時,原告が従事した「物の製造」という業務において労働者派遣は認められていなかったから,被告・溜畑鉄工間の法律関係は,労働者派遣契約ではなく脱法的な労働者供給契約と解さざるを得ないところ,同契約は,職業安定法44条及び中間搾取を禁じた労働基準法6条に違反し,強度の違法性を有し公の秩序に違反するものであるから,民法90条により無効となり,労働者供給を目的とする原告・溜畑鉄工間の労働契約も,不法動機を目的とするものであるから,民法90条により無効となる。
(2) ところで,社外労働者が受入企業の事業場において同企業から作業上の指揮命令を受けて労務に従事している場合,供給元企業の存在が形式的・名目的なものに過ぎず,実際には受入企業において労働条件を決定していると認められる場合には,受入企業との黙示の雇用契約の成立が認められる場合があるところ,黙示の合意により労働契約が成立したかどうかは,当該労務供給の具体的実態により両当事者間に事実上の使用従属関係,労務提供関係,賃金支払関係があるかどうか,この関係から両者に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断するのが相当である。
そして,本件の場合,ア溜畑鉄工は,被告及びせいぜい被告と同一グループ下にある会社にのみ労働者を派遣しているものであって,その意味では,被告の第二人事部的存在であり,被告との関係において独立した存在とは認め難く,原告の採用にしても,被告の作業長らが面接や実技試験を行って採否を決定しており,溜畑鉄工による原告の採用は,被告による採用を代行して行ったものに過ぎないと評価されることイ原告は,被告従業員と渾然一体となり,被告の作業長ら被告従業員の指揮命令を受けて労務に従事するとともに,出退勤の管理も被告が行うなど原告・被告間には使用従属関係が認められること
ウ被告と溜畑鉄工との契約代金は,実質上被告が決定し,しかも原告の賃金額(プラス溜畑鉄工の手数料)として定められていると思われることからすれば,原告が被告製作所にて就労を始めた当初から,原告・被告間には期間の定めのない黙示の労働契約が成立していることは明らかである。
(3) さらに,前記のとおり,被告・溜畑鉄工間及び原告・溜畑鉄工間の契約はいずれも公序良俗に反して無効となるところ,それにもかかわらず,現実には原告が労務を提供し,被告がこれを受けて原告を指揮,命令,監督して作業を行わせ,実質的に被告が賃金を支払っているという実体関係が存するのであるから,そのような実体関係を法的に根拠付け得るには,黙示の労働契約の成立を認めるしかないというべきである(なお,仮に被告・溜畑鉄工間の労働者派遣契約が無効とはいえないとしても,同契約の締結は,既に成立している黙示の労働契約に何等の影響を与えるものではない。)。

(被告の主張)
(1) 最高裁判所平成21年12月18日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁(以下「松下プラズマディスプレイ事件判決」という。)によれば,たとえ請負契約の実態に瑕疵があったとしても,注文者・労働者間に雇用契約が締結されていない限りにおいては,注文者,請負人及び労働者は労働者派遣の関係に該当するところ,労働者派遣法の規定に服することはあっても,職業安定法違反を問われる余地はない。したがって,仮に平成18年3月以前の本件請負契約が原告の主張するような偽装請負の状態であったとしても,あくまで労働者派遣に該当すると評価されるのであって,職業安定法上の労働者供給に該当するという原告の主張は当を得ない。また,労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば,仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との雇用契約が無効になることはないところ,本件においては,溜畑鉄工は,被告とは資本関係や人的関係が全くない等,被告から完全に独立した存在である以上,かかる特段の事情が存しないことは明らかである。
(2) そして,本件では,ア原告は,職業安定所に掲示された溜畑鉄工の求人票を見て,溜畑鉄工に応募し,同社の面接を受けて採用されており,採用が決まった者のうち,被告で勤務する予定の者に対して挨拶をしたり業務内容を説明するために顔合わせをする程度のことはあるが,当該採用面接に被告関係者が立ち会ったり,当該会社における採否決定のために実技試験を行うようなことはおろか,採否の決定に関与したなどの事実はないことイ溜畑鉄工は,独自に採用活動を行い,同社が請け負った業務の中で,自社の従業員の特性を踏まえた配置を行っており,その過程に被告が関与することはなく,原告を高温部品課所掌エリアで作業に従事させることを決定したのも溜畑鉄工であり,同社による当該決定について被告は一切関与していないことウ被告・溜畑鉄工間の契約代金は,仕事の性質や成果物等の観点から両者の協議によって決定されるものであり,被告が実質的に決めるようなことはないし,また,原告の賃金とも連動しておらず,同賃金は,溜畑鉄工が独自に決定しており,被告は同賃金の決定には関与していないことからすれば,原告・溜畑鉄工間の雇用契約は有効に存在しており,かつ,被告・原告間の黙示の労働契約も成立し得ない。

第3 争点に対する判断

1 認定事実
前記前提事実に加え,証拠(各項末尾掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1) 原告は,平成12年5月中旬ころ,ハローワーク加古川で溜畑鉄工の紹介を受け,同ハローワークから溜畑鉄工に架電したところ,溜畑鉄工のA取締役から,後日,溜畑鉄工の事務所のある被告製作所の正門前で待ち合わせること,グラインダーのテストがあるかもしれないから,作業のできる服装で来るようにと言われた。
そして,後日の面接の際,原告は,被告製作所のB作業長及びC係長から,図面を読めるかとかグラインダーを触れるかといった質問を受け,実際にグラインダーを使用するところを見せた。なお,上記採用面接の際,被告製作所の採用担当である総務部長や,工作部長の臨席はなかった。(甲19,原告本人)
(2) 原告は,上記面接を経て溜畑鉄工に採用となり,平成12年5月22日,溜畑鉄工との間で雇用契約を締結した。そして,原告は,同日,被告製作所において新入構者教育を受け,翌23日から,被告・溜畑鉄工間の業務請負契約に基づき,被告製作所高温部品課燃焼器係CB1班に配置され,その掌握エリアにて作業従事を開始した。
原告の従事していた業務は,主にG型燃焼器尾筒の全体合わせ作業であるが,その具体的内容は,尾筒をジグ(製品を固定する作業台のようなもの)へ固定し,ジグの枠に沿って尾筒の形を整えるという溶接の準備作業であり,いったん作業内容を覚えてしまえば,具体的な作業方法について都度の指示を受けることなく単独で行うことが可能な業務であった。
また,原告の作業部署では,約5分程度の朝礼が行われ,そこでは構内における安全衛生管理の維持・向上等のための一般的な訓辞や各種事務連絡がされたが,被告従業員から作業に関する指示がされるようなことはなかった。
さらに,溜畑鉄工の従業員の労働時間の管理は同社がしており,被告はしておらず,欠勤や休日出勤等についても,被告の許可が必要であったり被告から指示がされることはなかった。
そして,被告・溜畑鉄工間の請負代金額は,品質,コスト,納期等を踏まえて,両者間の交渉で決定していたが,これと原告の賃金とは連動しておらず,その具体的な額については溜畑鉄工が独自に決定しており,同決定に被告は関与しておらず,賃金の明細書も溜畑鉄工が発行していた。(甲3,19,乙16ないし18,証人D,同E,同F,原告本人)
(3) その後,被告は,需要の急増を受け,増産に対応するため製品の生産体制を再構築する必要が生じたところ,このまま業務請負体制を維持すると,各工程間に物が滞留して製作時間がかかったり,不良品の発見が遅れてしまうといった不都合が考えられたため,生産工程を統合して見直しをするとともに,派遣社員にも新しい作業を覚えてもらうため,中核の作業を被告従業員が行い,それ以外の作業を請負会社の従業員が行うというこれまでの区分けを止めることとした。
そこで,被告は,平成18年3月16日,溜畑鉄工との間で,労働者派遣に関する基本契約を締結し,同月29日付けで,同年4月1日から労働者派遣を開始することを個別契約によって定めた。また,被告及び溜畑鉄工は,同年3月29日付けで,上記派遣契約にかかる対価の支払に関する協定書を締結し,派遣労働者ごとにランク及び協定単価を定め,これに基づいて各人毎の支払額を決定し,その合計額を被告は溜畑鉄工に対し支払うこととした。
そして,被告は,溜畑鉄工との契約関係を業務請負から労働者派遣に切り替えたことに伴い,それまでは溜畑鉄工が自社の社員に対し支給していたグラインダー等の工具類につき,同年4月1日以降は自ら支給することとし,また,被告製作所へ通門する際に必要な通門許可証についても,派遣労働者用のものに変更した。(乙1ないし3,7,8,10ないし12,16ないし18,証人D,同E,
同F)
(4) 平成21年4月1日,被告は,原告が作業に従事している作業エリアは,指揮命令が必要ではないと判断し,被告・溜畑鉄工間の契約形態を,再度業務請負とした。(乙4ないし6)

2 判断
(1) 請負契約においては,請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが,請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって,請負人による労働者に対する指揮命令がなく,注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には,たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても,これを請負契約と評価することはできない。そして,上記の場合において,注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば,上記3者間の関係は,労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして,このような労働者派遣も,それが労働者派遣である以上は,職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。
そして,労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば,仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである(松下プラズマディスプレイ事件判決参照。)。
(2) そして,前記1認定のとおり,本件では,原告は,溜畑鉄工の採用面接の際,被告製作所のB作業長及びC係長からグラインダーの使用の可否等の質問を受けたものの,被告の採用担当である総務部長や工作部長の臨席はなく,その他,被告従業員が溜畑鉄工による原告採用に関与したことを認めるに足りる証拠はないこと,原告が被告製作所高温部品課燃焼器係CB1班の掌握エリアにて作業従事を開始するに当たり,当該配置は被告・溜畑鉄工間の業務請負契約に基づき溜畑鉄工が決定したものであり,被告はこれに関与していないこと,平成18年4月1日付けで被告・溜畑鉄工間の契約関係が労働者派遣に切り替わるまで,被告従業員が行う作業と請負会社の従業員が行う作業とは中核的なものかそれ以外かという基準で棲み分けされており,原告の従事する業務も,一度作業内容を覚えてしまえば具体的な作業方法につきその都度の指示を受けることなく単独で行うことが可能なものであり,朝礼等の機会も含め,そこに被告従業員から溜畑鉄工従業員に対する指揮監督関係は見られないこと,原告の賃金は,溜畑鉄工が独自に決定して自ら支給しており,それに被告は関与していないこと等が認められる。これらの事情からすれば,原告の労働環境の実態は,溜畑鉄工に採用され,溜畑鉄工の指示に基づいて労務を提供し,溜畑鉄工からその対価を受けているものというべきであり,また,被告・溜畑鉄工間の契約関係が労働者派遣,再度の業務請負と切り替わった後においても,上記実態に変化が生じたことを認めるに足りる事情は何ら見当たらないから,原告・溜畑鉄工間の雇用契約を無効ということはできない。
(3) 原告は,以下の点を指摘して,原告が被告製作所にて就労を始めた当初から,原告・被告間には期間の定めのない黙示の労働契約が成立していると主張する。
アまず,原告は,溜畑鉄工が被告の第二人事部的存在であり,被告との関係において独立した存在とは認め難く,溜畑鉄工による原告の採用も,被告による採用を代行して行ったものにすぎない旨主張する。
しかし,証拠(乙16,19,20,証人D)によれば,溜畑鉄工は,被告のグループ会社ではなく,資本関係や人的関係はないこと,溜畑鉄工の役員は全てG一族から選任されており,被告従業員の出向もされていないことが認められることからすれば,溜畑鉄工が被告の第二人事部的存在であるとか,被告から独立した存在でないと評価することはできない(なお,溜畑鉄工は,現在は被告としか取引関係を有しないようであるが(証人E),これは原告が溜畑鉄工に採用された時点とは無関係の事情である。)。
また,これに加え,前記1認定のとおり,原告は,溜畑鉄工の採用面接を受けた際,B作業長及びC係長から質問を受けているものの,被告製作所の採用担当である総務部長や工作部長の臨席はなく,上記質問等が原告の採用に何らかの影響を及ぼしたことをうかがわせる事情も見当たらないことからすれば,溜畑鉄工が被告による原告の採用を代行したものであるとも認められない。
イ次に,原告は,被告の従業員と渾然一体となり,被告従業員の指揮命令を受けて労務に従事し,出退勤の管理も被告が行っていたと主張するが,いずれも前記1認定の事実に反するものであって,主張自体失当であるといわざるを得ず,また,原告と被告の従業員とが渾然一体でないことは,作業上で不適合な製品を発生させた場合の対処手順一つをみても,被告従業員の場合と溜畑鉄工の従業員の場合とで異なることからして(乙13,18,証人F),明らかである。
ウさらに,原告は,被告・溜畑鉄工間の契約代金は実質上被告が決定しており,原告の賃金額等として定められていると主張する。
しかし,前記1認定のとおり,被告・溜畑鉄工間の契約代金は,両者間の交渉によって決められているし,仮に上記契約代金を実質上被告が決定しているとしても,それは単に請負企業である溜畑鉄工の地位の相対的な脆弱性を示すものにすぎず,原告の賃金額の決定方法とは直結しない議論であるといわねばならない。
また,前記1認定のとおり,原告の賃金額は,溜畑鉄工が独自に決定しており,同決定に被告は関与していないのであって,このことは,原告の賃金の改定等につき,原告が加入する労働組合(はりまユニオン)が被告ではなく溜畑鉄工と交渉し,その結果,原告の賃金額が改定されていることからしても(甲8,9,19,原告本人),明らかである。
そして,そもそも従業員の賃金自体,その所属する会社の業績によって左右されるものである以上,上記契約代金と原告の賃金額とが一見連動しているように見えたとしても,それは企業の経営上の生理的な現象にすぎないのであって,本件訴訟の帰趨に何らの影響も及ぼすものではない。
(4) その他,原告は,原告・被告間に黙示の労働契約が成立している旨を縷々主張するが,いずれも,これを裏付けるに足りる証拠が見当たらないか,独自の見解に基づくものであって,採用することができない。
(5) 以上のとおりであるから,原告が被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあると認めることはできない。

第4 結論
よって,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所姫路支部
裁判長裁判官 中 村 隆 次
裁判官 吉 澤 暁 子
裁判官 舘 野 俊 彦

 

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