残業代請求|福岡の司法書士 にじいろ法務事務所

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東京高裁 平成22年(行コ)第159号平成22年7月28日判決

2016-09-20

主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 控訴費用は控訴人の,附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

 

 

事 実 及 び 理 由

第1 当事者の求める裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決を次のとおり変更する
(2) 控訴人は,被控訴人に対し,45万2740円及びこれに対する平成18年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(被控訴人は,当審において,このように請求を減縮した。)。

第2 事案の概要
1 本件は,控訴人の職員である被控訴人が,平成14年4月から平成18年3月にかけて超過勤務を行ったにもかかわらず,超過勤務手当が一部しか支払われなかったとして,主位的に労働基準法(以下「労基法」という。)37条に基づき,労基法上の時間外手当を,予備的に職員の勤務時間,休日,休暇等に関する条例(平成7年3月16日・東京都条例第15号。以下「勤務時間条例」という。)10条及び職員の勤務時間,休日,休暇等に関する条例施行規則(平成7年3月16日・東京都規則第55号。以下「勤務時間条例規則」という。)7条に基づき,職員の給与に関する条例(昭和26年6月14日・東京都条例第75号。以下「給与条例」という。)15条所定の未払の超過勤務手当及び最終の給与支給日の翌日である平成18年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,また,上記請求がいずれも認められない場合の予備的請求として,不法行為による損害賠償請求権に基づき,未払の超過勤務手当相当額及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。なお,被控訴人は,遅延損害金請求について,原審においては商事法定利率年6分の割合による支払を求めていたが,附帯控訴において,上記のとおり,民法所定の年5分の割合にその請求を減縮した。

2 原審は,被控訴人の主位的請求である労基法37条に基づく時間外手当の請求について,労基法上の時間外手当請求権の発生は認めたが,平成17年11月15日支給日支払分以前の手当については消滅時効が完成しているため,同年12月15日給与支給日支払分以降の分の手当として13万7910円及びこれに対する最終の給与支給日の翌日である平成18年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求は棄却した。そこで,控訴人は,原判決中控訴人敗訴部分の取消しと同部分に係る被控訴人の請求の棄却を求めて控訴を提起し,被控訴人は,原判決中被控訴人敗訴部分の取消しと同部分に係る支払を求めて附帯控訴を提起した。

3 争いのない事実等,争点及び争点に対する当事者の主張は,当審における補充的主張を次項に加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の1から3までに記載のとおりであるからこれを引用する。

4 当審における当事者の補充的主張(労基法37条に基づく時間外手当請求権について)
(1) 控訴人
ア 地公法24条6項では職員の給与等の勤務条件は,条例で定められ,同法25条1項では,職員の給与は給与に関する条例に基づいて支給されなければならない旨定められている(給与条例主義)。したがって,職員から超過勤務をしたとの申出があったとしても,事前の超過勤務命令がなく,職員が勤務に従事したということのみでは,超過勤務手当請求権は発生しないし,緊急やむを得ない公務の必要性が認められ,かつ,勤務の事実が資料等で確認されることが要件となっている。
イ 労基法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,この労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まり(三菱重工事件。最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁),単に労働したというだけでは,労基法上の労働時間に該当しない。勤務時間条例規則7条1項は,事前の指揮命令(超過勤務命令)が存在し,労基法上の労働時間に該当する勤務についての規定であるのに対し,同条2項は,事前の指揮命令がなく,労基法上の労働時間に該当しない勤務について,緊急やむを得ない公務の必要性があり,任命権者があらかじめ職員に勤務を命じることができない場合にも,特に超過勤務として扱う旨の規定である。
ウ 被控訴人の時間外の労働について,事前の黙示の超過勤務命令を認定することは許されない。その理由は,以下のとおりである。
(ア) 勤務時間条例規則7条1項において,超過勤務を命じる職務命令は「超過勤務命令簿」による要式行為であることが定められ,当該規則の存在は多摩教育事務所管理課(以下「本件職場」という。)の管理者や職員も十分に熟知していた。しかも,本件職場においては,管理者が外出等で不在が多い等の理由もあり,a課長の着任以前から勤務時間条例規則7条2項の運用が原則として行われ,そのことを被控訴人を含む職員も十分に認識していた。このように民間法制にはない勤務時間条例規則7条2項が存し,被控訴人も上記運用を十分理解していたのであるから,同条1項の事前の黙示の超過勤務命令を認定し得ないことは明らかである。
(イ) 本件職場の管理者は,勤務時間条例規則7条2項の規定に基づいて,補助簿記載の勤務時間の全部を容認する対応をしていなかった。被控訴人も,上記の管理者の対応を認識し,補助簿に記載した実際の勤務実績時間に基づき命令簿を作成するに際しては,一定程度の自己否認した実績時間を記載し,管理者の決裁を受けていた。管理者側のこの対応は,黙示の超過勤務命令の存在を否定する明示の意思表示ともいうべきものである。
(ウ) 要式行為であることが規則に定められている職務命令について,これに反する黙示の職務命令を認定することは,給与条例主義に違反する。
(2) 被控訴人
ア 給与条例主義といえども,条例よりも上位の法規範である労基法が適用されるのであるから,条例は,労基法37条と整合して解釈されなければならない。
イ したがって,勤務時間条例規則7条1項及び2項は,労基法上の労働時間に基づき,勤務時間として把握される場合について,定めたものと解すべきである。
ウ 労基法上の労働時間に該当するというために,必ず明示の超過勤務命令を必要とするものではなく,黙示の超過勤務命令があると評価できる場合も含まれる。
被控訴人に対する超過勤務命令者である多摩教育事務所管理課長は,補助簿記載の各超過勤務について個別にその緊急性及び必要性を判断することはなく,手当を支給すべき超過勤務として命令簿に記入するかどうかは,専ら超過勤務手当の予算の範囲内に収まるかどうかによってのみ決めていた。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の請求は,労基法37条に基づき,平成17年12月15日給与支給日支払分以降の時間外手当として,13万7910円の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,後記2以下のとおりである。

2 事実関係は,原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。

3 労基法37条に基づく割増賃金請求権について
(1) 地公法58条3項によれば,被控訴人を含む一般職の地方公務員に関して適用除外をしている規定を除いては労基法が原則として適用されるから,時間外,休日及び深夜の割増賃金について定める労基法37条も,被控訴人に関して適用されるべきところ,同条1項は,使用者が時間外・休日労働の規定により労働時間を延長し,又は休日に労働させた場合においては,その時間又はその日の労働について,通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内で政令(割増賃金令)で定める率(時間外労働の場合は2割5分,休日労働の場合は3割5分)で計算した割増賃金を支払わなければならない旨を,また,同条4項は,使用者が午後10時から午前5時までの間に労働させた場合においては,その時間の労働については,通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない旨を,それぞれ定めている。
そして,本件において,被控訴人は,平成14年度ないし平成17年度において,原判決別表の「原告主張の時間数D」のとおり,正規の勤務時間を超えて,管理課教職員係として,担当分掌上の業務を遂行したことは,前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の1⑵に認定のとおりであるところ,被控訴人における正規の勤務時間は,1日8時間,週40時間であるから,被控訴人の正規の勤務時間を超えた勤務は,労基法32条所定の法定労働時間を超える勤務であるということができる。
(2) 前記のとおり,被控訴人を含む一般職の地方公務員に対しても労基法37条が適用されるから,被控訴人が労基法32条所定の法定労働時間を超えて勤務した時間が同条にいう労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)に該当する場合には,控訴人は,労基法37条に基づき,被控訴人に対し,労基法上の割増賃金(超過勤務手当と同額である。以下,労基法32条に従い「割増賃金」と記す。)を支払わなければならない。
そして,労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかにより客観的に定められ,当該労働を行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときには,当該行為は特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められる限り,労基法上の労働時間に該当するものいうべきである(最高裁平成7年(オ)第2029号平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。
これを本件についてみると,前記認定事実によれば,被控訴人は,現に正規の勤務時間内に完了できない業務を与えられ,そのために正規の勤務時間以外の時間や休日に担当分掌上の業務を行っていたこと,被控訴人の時間外の勤務は,公務の円滑な遂行に必要な行為であり,被控訴人が時間外の勤務を行わなければ,多摩教育事務所における繁忙時の公務が渋滞するなどの支障が生じていたこと,被控訴人に対する超過勤務命令者である多摩教育事務所管理課長は,被控訴人の超過勤務の事実を常日頃から現認し,被控訴人から補助簿の提出を受けるなどして,不定期ではあるけれども業務の報告を受け,超過勤務の実績を知悉した上で,被控訴人の超過勤務を容認していたこと,管理課長及び庶務係給与担当者は,超過勤務の実績に見合うだけの予算措置が講じられていなかったため,超過勤務手当を抑制するため,補助簿記載の各超過勤務について,補助簿記載の超過勤務時間数の一定割合のみを命令簿に転記させ,個別に,被控訴人の超過勤務の緊急性及び必要性を判断していなかったことなどが明らかであり,これらの諸点に照らせば,被控訴人が正規の勤務時間を超えてした勤務は,当該勤務を行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたものであって,使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができ,かつ,当該勤務に要した時間は社会通念上必要と認められるものであったということができるから,当該勤務に要した時間は,労基法上の労働時間に該当するものというべきである。
(3)ア これに対し,控訴人は,勤務時間条例規則7条1項は,事前の指揮命令(超過勤務命令)が存在し,労基法上の労働時間に該当する勤務についての規定であるのに対し,同条2項は,事前の指揮命令がなく,労基法上の労働時間に該当しない勤務について,緊急やむを得ない公務の必要があり,任命権者があらかじめ職員に勤務を命じることができない場合にも,超過勤務として扱う旨の規定であると主張する。
イ しかしながら,上記のとおり,労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかにより客観的に定められるものであり,当該勤務を行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときには,当該行為は特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価されるのであるから,労基法上の労働時間の該当性を肯定するために,明示の超過勤務命令の存在が必ずその前提要件となるものではないというべきである。そして,労基法37条が,被控訴人を含む一般職の地方公務員に適用され,勤務時間条例規則7条も,労基法37条を受けて定められたものであることからすれば,勤務時間条例規則7条1項が,任命権者に対して超過勤務命令簿によりあらかじめ勤務することを命じるべきであるとしているのも,当該命令の有無及びこれに基づいてされた時間外勤務の内容を明確にしておくための措置にすぎず,同項は,労基法37条に基づく時間外手当請求権の発生を否定する根拠とはなり得ないものというべきである。
ウ したがって,控訴人の前記主張は,採用することはできない。
(4) そうすると,被控訴人は,超過勤務命令者である多摩教育事務所管理課長の指揮命令下において,原判決別表の「原告主張の時間数D」のとおりの労基法32条所定の法定労働時間外の勤務をしているので,控訴人に対し,労基法37条に基づく割増賃金として,同別表中の「原告主張の時間数に対する金額E=A×D」から既払の同別表中の「支払実績金額C=A×B」を控除した残額である同別表中の「未払い金額(差額)F=E-C」の支払を求めることができる。

4 超過勤務手当請求権の消滅時効について
(1) 当裁判所も,被控訴人は,控訴人に対し,平成19年12月14日到達の書面で,平成14年4月1日から平成18年3月31日までの未払の割増賃金の支払催告を行い,その後6箇月以内に本訴を提起しているので,平成17年12月15日給与支給日支払分以降の割増賃金については時効が中断しているものの,同年11月15日給与支給日支払分以前の割増賃金については,労基法115条に定める2年間の消滅時効期間の経過により消滅しているものと判断する。
その理由は,原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の3に記載のとおりであるから(原判決25頁10行目冒頭から13行目末尾までの遅延損害金に関する判断部分を除く。),これを引用する。
(2) そうすると,被控訴人は,控訴人に対し,労基法37条に基づき,平成17年12月15日給与支給日支払分以降の割増賃金として,原判決別表の平成17年12月以降の「未払い金額(差額)F=E-C」の合計額である13万7910円の支払請求権を有する。

5 以上によれば,被控訴人の請求について,13万7910円及びこれに対する最終の給与支給日の翌日である平成18年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した原判決は相当である。
よって,本件控訴及び本件附帯控訴は,理由がないからいずれもこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官 井 上 繁 規
裁判官 笠 井 勝 彦
裁判官 坂 本 宗 一

 

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