残業代請求|福岡の司法書士 にじいろ法務事務所

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東京地裁平成20年(行ウ) 第305号 平成22年3月25日判決

2016-09-18

主 文
1 被告は,原告に対し,13万7910円及びこれに対する平成18年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し,その7を原告の,その余を被告の各負担とする。

 

 

事 実 及 び 理 由

第1 請求
1 被告は,原告に対し,45万2740円及びこれに対する平成18年4月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言

第2 事案の概要
本件は,被告東京都の職員である原告が,平成14年4月から平成18年3月にかけて超過勤務を行ったにもかかわらず,超過勤務手当が一部しか支払われなかったとして,主位的に労働基準法(以下「労基法」という。)37条に基づき,予備的に職員の勤務時間,休日,休暇等に関する条例(平成7年3月16日・東京都条例第15号。以下「勤務時間条例」という。)10条及び職員の勤務時間,休日,休暇等に関する条例施行規則(平成7年月16日・東京都規則第55号。以下「勤務時間条例規則」という。)7条に基づき,職員の給与に関する条例(昭和26年6月14日・東京都条例第75号。以下「給与条例」という。)15条所定の未払の超過勤務手当及び最終の給与支給日の翌日である平成18年4月16日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,また,上記請求がいずれも認められない場合の予備的請求として,不法行為による損害賠償請求権に基づき,未払の超過勤務手当相当額及びこれに対する同日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 争いのない事実等
以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠(以下,書証の枝番号は特に記す以外は省略する。)及び弁論の全趣旨により,容易に認めることができる。
(1) 原告
原告は,昭和48年4月1日に小金井市立公立学校事務職員として被告に採用されて以来,被告の任用職員として勤務し,平成14年4月1日(平成14年度)から平成18年3月31日(平成17年度)までは多摩教育事務所(東京都立川市α町所在)の管理課教職員係に,平成18年4月1日(平成18年度)以降は多摩教育事務所西多摩支所(東京都青梅市所在)の管理指導係に配属された地方公務員である。
(2) 多摩教育事務所
多摩教育事務所は,昭和46年に多摩地区の3出張所を統合して発足し,昭和62年2月に多摩図書館との合同施設である「多摩教育センター」の建設に伴い同センター3階に設置され,東京都教育庁の現地機関として市町村教育委員会に対する,指導,助言,援助を行うとともに,市町村教育委員会,東京都教育委員会事務局各部課との連絡調整に当たり,多摩地区義務教育の水準の維持向上を図る機関である。
多摩教育事務所管理課には,庶務係,学事係,教職員係の3係があり,このうち原告が配属されていた教職員係は,市町村立小・中学校教職員の任命,その他の人事及び給与に関する事務,市町村立学校教職員の任免人事管理,市町村立学校教職員の初任給,昇格及び昇給管理事務,市町村立学校の臨時的任用教職員及び非常勤講師に関する事務,市町村立学校教職員等に関する勤務条件,その他の専門的事項に関する連絡等を担当している。
(3) 原告の担当業務
原告は,平成14年度から平成17年度まで,多摩教育事務所管理課教職員係において,以下の業務を担当した。
ア 平成14年度
(ア) 担当5地区(昭島市・小平市・東村山市・武蔵村山市・西多摩郡)内の公立小中学校教職員の採用・退職等の内申書審査,初任給計算,人事電算入力等の教職員任用事務
(イ) 担当5地区(昭島市・小平市・東村山市・武蔵村山市・西多摩郡)内の公立小中学校教職員の昇給・昇格内申書審査,人事電算入力等の昇給事務
(ウ) 担当5地区(昭島市・小平市・東村山市・武蔵村山市・西多摩郡)内の公立学校の臨時的任用教職員の任用事務
(エ) 多摩地域(26市及び西多摩郡)内の公立小中学校に勤務する講師の採用・業績評価・任用希望調査・斡旋等の講師任用事務
(オ) その他業務(担当5地区の永年勤続調査,給与審査に関する副担当,任用に関する副担当等)
イ 平成15年度
(ア) 担当5地区(府中市・昭島市・小平市・武蔵村山市・西多摩郡)内の公立小中学校教職員の採用・退職等の内申書審査,初任給計算,人事電算入力等の教職員任用事務
(イ) 担当5地区(府中市・昭島市・小平市・武蔵村山市・西多摩郡)内の公立小中学校教職員の昇給・昇格内申書審査,人事電算入力等の昇給事務
(ウ) 担当5地区(府中市・昭島市・小平市・武蔵村山市・西多摩郡)内の公立学校の臨時的任用教職員の任用事務
(エ) 多摩地域(26市及び西多摩郡)内の公立小中学校に勤務する講師の採用・業績評価・任用希望調査・需給計画調べ・斡旋等の講師任用事務
(オ) その他業務(担当5地区の永年勤続調査,給与審査に関する副担当,任用に関する副担当等)
ウ 平成16年度
(ア) 担当5地区(国立市・日野市・東村山市・稲城市・あきる野市)内の公立小中学校教職員の採用・退職等の内申書審査,初任給計算,人事電算入力等の教職員任用事務
(イ) 担当5地区(国立市・日野市・東村山市・稲城市・あきる野市)内の公立小中学校教職員の昇給・昇格内申書審査,人事電算入力等の昇給事務
(ウ) 担当5地区(国立市・日野市・東村山市・稲城市・あきる野市)内の公立学校の臨時的任用教職員の任用事務
(エ) 講師任用事務の4月度の援助(担当交替,新規採用者の研修時不在のため)
(オ) 臨時的任用に関する正担当
年2回(5月・11月)の臨時的任用教職員選考の多摩受付・面接実施・合否判定資料作成・結果通知発送・臨時電算への登載・紙台帳の作成,任用後の人物証明書の回収,人事部選考課・人事給与情報課
との調整等
(カ) 任用に関する正担当
年度途中退職への対応,1月の任用事務説明会の実施,1月から3月にかけての年度末退職・転任・主幹昇任等に関する業務全般の進行管理等(1月説明会,係員全員分の退職書類の集計・報告・起案,転任書類の起案,入力確認,エラー修正,転任一覧表・FD作成・発令通知書等の配布,人事部職員課・人事給与情報課との調整)
(キ) その他業務(担当5地区の永年勤続調査,給与審査に関する副担当,任用に関する副担当等)
エ 平成17年度
(ア) 担当6地区(三鷹市・青梅市・小金井市・国分寺市・西東京市・福生市)内の公立小中学校教職員の採用・退職等の内申書審査,初任給計算,人事電算入力等の教職員任用事務
(イ) 担当6地区(三鷹市・青梅市・小金井市・国分寺市・西東京市・福生市)内の公立小中学校教職員の昇給・昇格内申書審査,人事電算入力等の昇給事務,平成18年4月1日付け給料切替審査事務(全教職員対象)
(ウ) 担当6地区(三鷹市・青梅市・小金井市・国分寺市・西東京市・福生市)内の公立学校の臨時的任用教職員の任用事務
(エ) 臨時的任用に関する正担当
年2回(5月・11月)の臨時的任用教職員選考の多摩受付・面接実施・合否判定資料作成・結果通知発送・臨時電算への登載・紙台帳の作成,任用後の人物証明書の回収,人事部選考課・人事給与情報課との調整等
(オ) 任用に関する正担当
年度途中退職への対応,1月の任用事務説明会の実施,1月から3月にかけての年度末退職・転任・主幹昇任等に関する業務全般の進行管理等(1月説明会,係員全員分の退職書類の集計・報告・起案,転任書類の起案,入力確認,エラー修正,転任一覧表・FD作成・発令通知書等の配布,人事部職員課・人事給与情報課との調整)
(カ) その他業務(担当5地区の永年勤続調査,給与審査に関する副担当,任用に関する副担当等)
(4) 原告の勤務条件
平成14年度から平成17年度まで多摩教育事務所に配属されていた当時の原告の勤務条件は,以下のとおりである。
ア 正規の勤務時間
平成14年度,平成15年度及び平成17年度は9時から17時45分までの8時間,平成16年度は8時30分から17時15分までの8時間。
イ 休憩時間
12時15分から13時までの45分
ウ 就業場所
立川市α町所在の多摩教育事務所
エ 給与
(ア) 給与は,給与条例に基づいて支給され,所定の給料表により,発令された級,号に応じて支給される給料のほか,調整手当,扶養手当,管理職手当,住居手当,通勤手当等がある。また,正規の勤務時間を超えて勤務すること(「超過勤務」)を命ぜられ,正規の勤務時間を超えて勤務した場合に,超過勤務手当が支給される。
(イ) 給料
a 支給計算は,毎月1日から末日である。
b 給料支給日は,当月15日であるが,15日が日曜日,土曜日又は休日(国民の祝日に関する法律[昭和23年法律第178号]に定める休日をいう。以下同じ。)に当たるときは,15日に最も近い日曜日,土曜日又は休日でない日(その日が二あるときは,15日より前の日)を支給日とする(職員の給与に関する条例施行規則[昭和37年11月1日・東京都規則第172号。以下「給与条例規則」という。]2条)。
(ウ) 超過勤務手当
a 超過勤務手当の支給日は,翌月15日であるが,15日が日曜日,土曜日又は休日に当たるときは,15日に最も近い日曜日,土曜日又は休日でない日(その日が二あるときは,15日より前の日)を支給日とする(給与条例規則14条)。
b 超過勤務手当の計算式
勤務1時間当たりの給料等の額(給料の月額及び人事委員会の承認を得て東京都規則で定める手当の月額のそれぞれに12を乗じて得た額を,人事委員会の承認を得て東京都規則で定める年間の勤務時間でそれぞれ除して得た額)に,正規の勤務時間を超えてした勤務の区分に応じてそれぞれ100分の125から100分の150までの範囲内の割合(その勤務が午後10時から翌日の午前5時までの間である場合は,その割合に100分の25を加算した割合)を乗じて得た額の合計額を超過勤務手当として支給する(給与条例15条,18条,23条,給与条例規則9条)。
(5) 原告の超過勤務
平成14年度ないし平成17年度において,被告が原告に対して超過勤務手当を支給した年月,原告の超過勤務手当の1時間当たりの単価,被告が原告の超過勤務として認めた時間数,被告が支払った超過勤務手当の額は,それぞれ別表の「支給年月」,「超過勤務時間単価A,A’」,「支払実績時間数B」,「支払実績金額C=A×B」のとおりである。また,同期間中における,原告主張の超過勤務時間数は,別表の「原告主張の時間数D」のとおりであり,仮に超過勤務時間数が「原告主張の時間数D」であったとしたならば,その場合の,超過勤務手当の額,支払実績金額との差額は,それぞれ別表の「原告主張の時間数に対する金額E=A×D」,「未払い金額(差額)F=E-C」のとおりである(6) 給与に関する法令の定め
地方公務員法(以下「地公法」という。)24条6項は,職員の給与,勤務時間その他の勤務条件は,条例で定めること,同法25条1項は,職員の給与は,前条6項の規定による給与に関する条例に基づいて支給されなければならず,又,これに基づかずには,いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならないと規定している。
これを受けて,給与条例15条,18条,23条,給与条例規則9条は,正規の勤務時間を超えて勤務時間条例10条の規定により勤務することを命ぜられた職員には,正規の勤務時間を超えて勤務した全時間に対して,前記(4)エ(ウ)bのとおりの超過勤務手当を支給する旨規定している。
そして,勤務時間条例10条は,任命権者は,公務のため臨時又は緊急の必要がある場合には,職員に対し,正規の勤務時間以外の時間において断続的な勤務以外の勤務を命ずることができる旨規定し,同条例20条の委任を受けて勤務時間条例規則7条1項は,任命権者は,職員に勤務時間条例10条の規定による勤務(「超過勤務」)を命ずるときは,別記第二号様式(「超過勤務命令簿」。以下「命令簿」という。)により,あらかじめ勤務することを命じ,かつ,事後に勤務の状況を確認しなければならないと規定し,また同条2項は,前項の規定にかかわらず,緊急かつやむを得ない公務の必要があり,任命権者があらかじめ職員に勤務することを命ずることができなかった場合で,職員から超過勤務をしたことの申出があったときは,当該勤務の事実を証する資料等に基づきその事実を確認し,同項の手続をとったものとして取り扱うことができると規定している。
(7) 東京都人事委員会に対する措置要求及び同委員会による判定原告は,平成18年6月23日,東京都人事委員会に対し,超過勤務手当を算定し直して原告ほか職員に正確に支給すること等を求める措置要求をした。
東京都人事委員会は,原告の措置要求に対し,平成19年6月11日,原告の平成17年5月1日から平成18年3月31日までの超過勤務手当の支給を求める点については棄却し,平成9年度から平成17年4月30日までの超過勤務手当の支給を求める点については却下するとの判定をした(甲27~30,35,36)。
(8) 被告に対する催告と本訴の提起
原告は,被告に対し,平成19年12月13日,平成14年4月1日から平成18年3月31日までの未払の超過勤務手当の支払を請求する旨の通知書を送付し,同通知書は平成19年12月14日に被告に到達した。その後,原告は,平成20年5月28日,当庁に本訴を提起した(甲31)。
(9) 被告の消滅時効の援用の意思表示
被告は,平成20年7月3日の本件第1回口頭弁論期日において,平成14年4月分から平成17年11月15日給与支給日支払分までの超過勤務手当について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

2 争点
(1) 労基法37条に基づく超過勤務手当請求権
(2) 勤務時間条例に基づく超過勤務手当請求権-(1)の労基法37条に基づく超過勤務手当請求権が認められない場合の予備的請求
(3) 超過勤務手当請求権の消滅時効
(4) 不法行為による損害賠償請求権-(1)又は(2)の超過勤務手当請求権がいずれも認められない場合の予備的請求
(5) 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

3 争点に対する当事者の主張の要旨
(1) 争点(1)(労基法37条に基づく超過勤務手当請求権)について
ア 原告
原告に対しては労基法37条が適用される。そして,事前に勤務時間条例の定める命令簿による発令がなくとも,職員への超過勤務命令については特段の形式によらなければならない特段の要請があるわけではなく,すでにされた時間外勤務に対して時間外勤務手当の支給がされるべきか否かが問題になる本件においては,原告の超過勤務が,原告の上長である管理課長又は原告に対して事実上拘束力のある上長の超過勤務命令に基づくものであるか否かを確認すれば足りる。命令簿によって超過勤務命令をしなければならないとされている点は,上記命令の有無及びこれに基づいてされた時間外勤務の内容等を明確にしておくためのものにすぎない。
勤務時間条例の解釈にあたっては,原告に対して労基法37条が適用される以上,その定める超過勤務手当の支給が,同条による割増賃金の支払と同様の役割を果たすものであることを考慮しなければならない。
したがって,労基法37条の意味合いと異なる意味において「緊急かつやむを得ない公務の必要性」がある場合に超過勤務手当が支給されると被告が主張することは許されない。
そうすると,問題は,原告に対して,原告の上長である管理課長又は原告に対して事実上拘束力のある上長の超過勤務命令があったかである。
本件では,明示の超過勤務命令は存在しないから,黙示の超過勤務命令があったかであるが,原告は,平成14年度から平成17年度において,超過勤務を行い,これら原告の超過勤務の成果を被告は当然のこととして受領し,被告において超過勤務を事前に申し出ることを促したことや超過勤務をした後に速やかに事後の承認を得るよう促したこともないから,原告がした超過勤務に対して,原告の上長である管理課長による黙示の超過勤務の職務命令が存したと解すべきである。
したがって,被告は,原告に対し,別表の未払い金額(差額)欄記載の超過勤務手当の支払義務がある。
イ 被告
労基法37条の割増賃金の請求原因たる労基法上の「労働時間」は,「使用者の指揮命令に従って労務を提供する時間」であるから,単なる労働の実態に加えて当該労働が指揮命令によるものであることを要する。
この点,原告は,本件では黙示の業務命令があると主張する。
しかし,勤務時間条例規則7条1項では,超過勤務を命じる職務命令は「命令簿」という要式行為であることが厳然と明定され,当該規則の存在は本件職場の管理者や職員も充分に熟知していたから,黙示の職務命令を認定することはそれ自体背理である。しかも,本件職場においては,管理者が同規則7条2項の運用を原則として行い,現に同条項の運用を職員も充分に承知していた。本件で問題となる超過勤務補助簿は,その目的は本人の動静確認であり,同規則7条2項所定の「職員から超過勤務をしたことの申出」の書類として扱われてきたが,補助簿記載の内容が直ちに同規則7条2項の緊急性・必要性を満たすものではないから,本人と担当者が調整のうえ当該要件を斟酌してそれに合致すると思われる時間について命令簿に記載し,管理課長の決裁を受け,正式に同規則7条2項の要件を満たす超過勤務として扱ってきた。かかる事実関係が存する本件職場について,同規則7条1項の黙示の超過勤務命令の存在を推認することは不可能であり,その存在をいう原告の主張は失当である。
(2) 争点(2)(勤務時間条例に基づく超過勤務手当請求権-(1)の労基法37条に基づく超過勤務手当請求権が認められない場合の予備的請求)について
ア 原告
原告を含む多摩教育事務所管理課の職員は,公務上,超過勤務する必要性が発生して超過勤務をした場合,事後に,「超過勤務処理簿」又は「超過勤務処理簿(補助簿)」(以下,これらを「補助簿」という。)に,日,時間,業務内容を記入して,給与事務担当者に提出し,その後,給与事務担当者は,所属長(原告の職場の場合は多摩教育事務所管理課長)の指揮の下,職員から提出された補助簿に基づいて職員全員の超過勤務時間数を集計し,予算と比較してこれを超えないように超過勤務手当の支給割合を決め,各職員の超過勤務実績に支給割合を乗じて各職員の超過勤務手当支給時間数を算出・指定し,同指定に基づいて,各職員は,自己の行った超過勤務のうち一部だけを命令簿に記載して給与支給担当者に提出し,所属長の決裁を得て超過勤務手当が支給される。
このように,補助簿に記載された実際の超過勤務時間のうち,予算額を超える部分については命令簿に記載せずに不払とする仕組み(以下「不払システム」という。)となっている。しかし,原告は超過勤務の必要性があるからこそ,超過勤務を行い,被告はその成果を受領し事業に生かしており,これは勤務時間条例規則7条2項の「緊急かつやむを得ない公務の必要性」があったことによる業務である。したがって,別表の「原告主張の時間数D」すべてについて,超過勤務手当請求権が発生する。
イ 被告
勤務時間条例及び同条例規則によれば,事前に超過勤務命令ができなかった場合において,職員が超過勤務をした事実が確認できたとしても,超過勤務手当の支給要件として,緊急かつやむを得ない公務の必要性が認められることが必要である。
多摩教育事務所において,補助簿を使用していた事実はあるが,これは超過勤務を命じ,あるいは事後的にその勤務の緊急性,必要性を認めたものではない。補助簿は,職員の判断により作成し,勤務時間外に職場に残った時間(在庁時間)を事実上申告するものにすぎず,また勤務時間外に行う勤務の前に提出されず事後に提出されるものであり,勤務時間条例10条及び同条例規則7条の命令簿ではない。原告主張の不払システムの存在は否認する。
超過勤務命令者(本件では多摩教育事務所管理課長)は,命令簿に記された業務内容に限らず,前日までの業務遂行状況及び当日の勤務時間内の業務遂行状況を踏まえ,超過勤務としての緊急性及び必要性を判断する必要があるところ,原告についても,命令簿に原告が記したそれぞれの業務を当該日時に行うにあたって,原告の当該日時までの業務遂行状況等を総合的に踏まえ,緊急性,必要性の適否を検討して,別表の「原告主張の時間数D」のうち「支払実績時間数B」については緊急性・必要性を認めて超過勤務手当を支給したが,それ以外については緊急性・必要性が認められなかったために超過勤務手当を支給しなかったのであるから,原告の超過勤務手当の請求は理由がない。
(3) 争点(3)(超過勤務手当請求権の消滅時効)について
ア 被告
(ア) 原告の主張する平成14年4月分から平成18年3月分までの超過勤務手当請求権が仮に発生していたとしても,平成14年4月分から平成17年11月15日給与支給日支払分までの超過勤務手当については,平成19年12月14日に被告に到達した催告以前に2年を経過していることから,被告は労基法115条による消滅時効を援用する。
(イ) 原告は措置要求が時効中断効を生じると主張するが,措置要求は,裁判所が関与して権利の存否を判断する訴訟手続とは全く異なり,また,行政手続は時効中断効を生じさせるものではないから,措置要求が時効中断効を生じさせる「裁判上の請求」に含まれないことは明らかである。(ウ) 原告は消滅時効の援用が権利濫用に当たる旨主張するが,原告には時効中断のため催告を行いその後6か月以内に裁判上の請求その他裁判所の関与する手続を行うとの手段があり,また,被告が,原告に対して債務の弁済が確実になされるであろうとの信頼を惹起させて原告の時効中断の措置を採ることを怠らせるなど信義に反する行為を行った事実も一切ないことから,原告の権利濫用の主張は失当である。
イ 原告
(ア) 人事委員会の措置要求(地公法46条)は,労働基本権が制限される代償として,地方公務員の福祉及び利益の保護を制度的に保障するために設けられたものであり,人事委員会による調査・判定は,司法手続に準じる内容を有していることから,未払の超過勤務手当の支払を求める人事委員会への措置要求は,少なくとも要求者本人については「裁判上の請求」(民法149条)に準じて確定的に時効を中断する。
(イ) 総務部総務課長と多摩教育事務所管理課長は,平成18年3月までの4年間にわたり労基法に違反して超過勤務手当を支払わず,さらに,不払の事実を原告が内部告発した平成18年6月から今日まで3年半にわたり不払を継続し,東京都人事委員会の措置要求における調査に対し,補助簿が事実上の超勤時間の総計や超勤手当の総額の算定及び予算内における支出の実行に必要不可欠なものとして使用されている事実を告げず,超勤手当の試算入力シートや集計表を提出せず,東京都人事委員会から誤った判定を出させ,本件訴訟においても同様の主張を繰り返し,延べ7年半以上にわたり,超過勤務手当を支払わないとの労基法違反を継続していることから,消滅時効の援用は権利の濫用である。
(4) 争点(4)(不法行為による損害賠償請求権-(1)又は(2)の超過勤務手当請求権がいずれも認められない場合の予備的請求)について
ア 原告
原告の超過勤務に対して,総務部総務課長は必要な予算措置を講じないことを長期間継続し,多摩教育事務所管理課長は予算不足のなかで,実際にされた超過勤務の5ないし6割を全所員に平均に配分することでよかれとして,改善義務を実施せずに不払システムを継続維持するなどして,平成18年3月までの4年間にわたり労基法に違反して超過勤務手当を支払わず,さらに,不払の事実を原告が内部告発した平成18年6月から今日まで3年半にわたり不払を継続し,東京都人事委員会の措置要求における調査に対し,補助簿が事実上の超勤時間の総計や超勤手当の総額の算定及び予算内における支出の実行に必要不可欠なものとして使用されている事実を告げず,超過勤務手当の試算入力シートや集計表を提出せず,東京都人事委員会から誤った判定を出させ,本件訴訟においても同様の主張を繰り返し,延べ7年半以上にわたり,超過勤務手当を支払わないとの労基法違反を継続するとの不法行為をしたことから,国家賠償請求権に基づき,原告は,被告に対して,未払の超過勤務手当相当額の45万2740円の損害賠償を求める。
イ 被告
否認ないし争う。
職員の超過勤務は,事前の勤務命令に基づく場合又は事前に勤務命令ができなかった場合には緊急かつやむを得ない公務の必要性が認められることが必要であるが,所属長はこれまで適切に超過勤務の管理をしていると認識している。労働さえすれば勤務命令等の根拠もなく「超過勤務」となるとの前提に立つ原告の主張は失当である。また,被告において「不払システム」なるものは存在しない。さらに,多摩教育事務所所属長(管理課長)は必要な場合には予算増額要求を行い,教育庁総務部総務課長を含め被告はこれに対して必要と認められた場合には臨時配分を行った実績があるなど(平成16年度,平成17年度),適切に対応しており,意図的に放置した事実もなく,違法行為は認められない。
(5) 争点(5)(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)について
ア 被告
原告は,被告が毎月の「不払システム」なる事実を前提として不法行為をしていたと主張するのであるから,それぞれ毎月の不払によって損害がその都度発生していると解される。したがって,原告が被告に対して不法行為による損害賠償の請求をした原告準備書面4の裁判所提出日(平成21年5月21日)より3年以前の給与支給日不払相当額について,予備的に消滅時効を援用する(国家賠償法4条,民法724条)。
イ 原告
前記(3)イ(イ)と同じ。

第3 当裁判所の判断
1 事実関係
前記第2の1の争いのない事実等のほか,証拠(甲1,9~26,29,34,37,38,40~45,47,48,証人P1,同P2,同P3,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。証拠中,認定事実に反する部分は採用しない。
(1) 多摩教育事務所は,東京都の中で23区及び島部を除いた26市と4町村,給食組合を管轄している。そのうち管理課教職員係は,同地域の公立小中学校の正規の教職員の採用・退職・転任・昇給に関する事務,臨時的任用教職員及び非常勤講師の選考・任用を一括処理する部署である。そして,毎年,年度当初には教職員の採用・転任等が予定されているため,年末から年度末及び年度当初の時期は,特に業務が多忙となり恒常的に超過勤務が発生していた。
(2) 原告は,平成14年度ないし平成17年度において,管理課教職員係として,別表の「原告主張の時間数D」のとおり,正規の勤務時間を超えて,新規採用教員の初任給チェック,例月入力講師帳票の点検・整理,説明会資料・研修資料作成,昇級審査事務,昇格者昇給事務,市教育委員会訪問調査時書式の作成,講師授業観察準備,自己申告書の作成,勧奨退職入力その他退職事務,講師斡旋事務,転任名簿等のチェック,講師任用事務,新規採用入力・内容点検,臨時的任用教職員審査・入力,発令通知書等の仕分け・事務整理,担任課程名簿入力・点検,臨時的任用選考事務,倉庫内の溶解文書の整理・点検,給与切替審査事務等,その担当分掌上の業務を行った。原告の上記超過勤務は,いずれも,これが行われなければ,多摩教育事務所の公務が渋滞するなど,公務の円滑な遂行に必要な行為であった。
(3) ところで,多摩教育事務所では,原告を含む職員が,公務上,超過勤務する必要性が発生した場合には,事前あるいは,ほとんどの場合は超過勤務を現実に行った後に,多摩教育事務所管理課が指定する様式である補助簿に,超過勤務をした月日,超過勤務場所,超過勤務内容,超過勤務時間等を記入していた。補助簿は,超過勤務時間として,22:00までの時間帯及び時間数と,22:00からの時間帯及び時間数が区分されて記入されることや,あるいは時間帯等によって,100分の125(22:00まで),100分の150(22:00以降)及び100分の135(休日勤務)に区分されて記入されること,さらに従事職員のほか,係長や管理課長といった上長の確認印が押印されることを予定する形式がとられていた。
(4) 平成14年度ないし平成17年度において,多摩教育事務所では,毎月,給与電算に入力するための入力用紙の教育庁総務課への提出の締切が25日であったことから,20日までに庶務係給与担当者が,各職員から補助簿又はその写しの提出を受けてこれを回収していた。
なお,管理課長は,庶務係給与担当者による毎月20日の補助簿の回収とは別に,職員から個別に補助簿の提出を受け,各職員の超過勤務の状況を確認した上でこれに押印することもあった。
(5) 庶務係給与担当者は,各職員から回収した補助簿に記載された超過勤務の日時について,庁内取締簿(甲42。毎日の最終退庁者の退庁時刻が記載されるもの。),旅行命令簿兼旅費請求内訳書(甲48。出張命令に伴って作成され,旅行時間,旅行用務,旅行先,旅行の経路等が記載されるもの。)及び出勤簿と照合した上で,超過勤務時間の合計時間を集計し,超勤試算入力シート(甲45の1)に入力していた。この超勤試算入力シートは,0.3ないし0.6の支給率及び職員毎の一時間当たりの超過勤務手当の単価が予め記載され,各職員の超過勤務時間数を入力すれば,各支給率に応じた超過勤務時間数及び超過勤務手当の額や配布額に対する予算額が自動的に算出されるものであった。このように,超勤試算入力シートは,補助簿記載の超過勤務時間数に職員毎の超過勤務手当の単価を乗じ,これに一定の支給率を乗じて,残存している超過勤務手当の予算額の範囲内でどれだけ支給できるかを算定するためのシートであった。
さらに,庶務係給与担当者は,年間超勤支給時間集計表(甲45の2)をも作成していた。年間超勤支給時間集計表は,補助簿から算出される超過勤務時間数(「実績A+B」),超過勤務手当を支給できた時間数(「支給時間B」),超過勤務手当を支給できなかった超過勤務時間数(「残B」)を,職員毎に年度単位で毎月集計し,年間の支給率が可能な限り各職員間で平等になるようにするための計算表であった。
こうして,庶務係給与担当者は,給与電算に入力するための入力用紙に職員毎に超過勤務手当を支給できる超過勤務時間数を記入し,上書きとして「予算執行状況通知書」,さらに上記の超勤試算入力シート及び年間超勤支給時間集計表を添付して,係長さらには管理課長に提出して決裁を受けていた。上記各文書には,超過勤務手当を支給すべき超過勤務時間数が記載されるだけで,何時行われた超過勤務に対して超過勤務手当を支給すべき(あるいは支給すべきでない)との記載はなく,予算の範囲内で認められる超過勤務時間数(ないしは超過勤務手当の額)が記載されているのみであった。なお,管理課長の決裁の際に,補助簿が決裁資料として添付されることはなかった。
(6) 庶務係給与担当者は,管理課長の決裁を受けた後に,電算入力用の入力用紙を教育庁総務課に提出し,教育庁総務課は,提出された入力用紙に基づいて給与電算に入力し,庶務係給与担当者に対し,給与明細書等を配布し,これにより,各職員に支給される超過勤務手当の超過勤務時間数及び金額が確定された。
(7) その後,庶務係給与担当者は,配布された給与明細等と超勤試算入力シートと照合した上で,翌月の10日過ぎころ,各職員の補助簿を見ながら,超過勤務手当の支給が認められた超過勤務時間数に合致するように,補助簿で申告された超過勤務の中から適当な日時の超過勤務を選んで丸印を付け,この丸印を付けた補助簿と命令簿の用紙とを,各職員に交付し,丸印を付けた超過勤務の部分だけを命令簿に転記するよう指示していた。庶務
係給与担当者が補助簿記載の超過勤務の中から命令簿に転記すべく選択する超過勤務は,勤務の内容を見て緊急性・必要性を勘案して決めるわけではなく,超過勤務手当の支給される超過勤務時間数と合致する超過勤務を適当に選ぶだけであった。
各職員は,庶務係給与担当者の指示に基づいて,補助簿の中から丸印を付された超過勤務のみを命令簿に記載して,これを係長さらには管理課長に提出して決裁を受け,最終的には命令簿に記載された超過勤務に対応する超過勤務手当が支給されていた。
(8) 前記の毎月20日の補助簿の回収から,庶務係給与担当者による予算執行状況通知書,入力用紙,超勤試算入力シート及び年間超勤支給時間集計表の作成と管理課長による決裁,庶務係給与担当者からの各職員に対する命令簿への記入の指示,各職員による命令簿の作成と管理課長による決裁の一連の流れの中で,庶務係給与担当者はもとより係長及び管理課長のいずれも,補助簿記載の各超過勤務について個別にその緊急性・必要性を判断することは一切なく,超過勤務手当を支給すべき超過勤務として命令簿に記入するかどうかは,専ら,超過勤務手当の予算の範囲内におさまるかどうかのみによって決められていた。そして,超過勤務の実績に見合うだけの超過勤務手当の予算が確保されていないため,毎年,年間を平均して,補助簿記載の超過勤務時間数の5割ないし6割程度の超過勤務に対してのみ超過勤務手当が支給されるにすぎなかった。
(9) 管理課長は,原告を含む多摩教育事務所の職員が,命令簿記載の超過勤務以上の超過勤務をしている事実を,常日頃から現認し,また,補助簿,旅行命令簿兼旅費請求内訳書,庁内取締簿を確認するなどして,これを知悉していた。

2 争点(1)(労基法37条に基づく超過勤務手当請求権)について
地公法58条3項によれば,原告を含む一般職の地方公務員に対し適用除外をしている規定を除いては労基法が原則として適用されると解されるから,時間外,休日及び深夜の割増賃金に関する同法37条も原告に対して適用されるべきところ,同法37条によれば,使用者が同条33条,36条の規定により時間外労働をさせた場合においては,通常の賃金の2割5分以上5割以下の範囲内で政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないとされ,これに対応して被告においても,給与条例15条において,正規の勤務時間を超えて勤務時間条例10条の規定により勤務することを命ぜられた職員には,正規の勤務時間を超えて勤務した全時間に対して,勤務1時間につき,給与条例18条に規定する勤務1時間当たりの給料等の額に正規の勤務時間を超えてした勤務の区分に応じてそれぞれ100分の125から100分の150までの範囲内の割合(その勤務が午後10時から翌日の午前5時までの間である場合は,その割合に100分の25を加算した割合)を乗じて得た額の合計額を超過勤務手当として支給するとされている。したがって,被告が原告に正規の勤務時間を超えて勤務させた場合においては,上記の給与条例15条所定の超過勤務手当を支払わなければならないものと解される。
本件において,原告は,平成14年度ないし平成17年度において,別表の「原告主張の時間数D」のとおり,正規の勤務時間を超えて,管理課教職員係として,担当分掌上の業務を遂行したことは,前記1(2)認定のとおりである。
そして,原告は,現に正規の勤務時間内に終えることができないような業務を与えられ,そのために正規の勤務時間以外の時間や休日に担当分掌上の業務を行っていること,原告の超過勤務は,いずれも,これが行われなければ,多摩教育事務所の公務が渋滞するなど,公務の円滑な遂行に必要な行為であったこと,これら超過勤務の実績については,管理課長において,その勤務ぶりを常日頃から現認しているばかりか,原告から補助簿の提出を受けるなどして不定期ではあるけれども業務の報告を受けることにより知悉していた上で,かかる超過勤務を容認していたこと,また,超過勤務の実績に見合うだけの予算措置が講じられていなかったために補助簿記載の超過勤務時間数の一定割合のみを命令簿に記載させて超過勤務手当の申請を事実上抑制していたこと(なお,超過勤務手当について予算等の財源措置を講じていないからといって,被告が地方公共団体としてその負担すべき超過勤務手当の支給を拒み得ないことは当然であり,かかる取扱いが不相当であることは明らかである。)からすれば,原告に対しては,各超過勤務をするに当たっては,管理課長から黙示的に超過勤務命令があったものと認めるのが相当である。
そうすると,原告は,命令権者である管理課長の黙示の超過勤務命令の下に,別表の「原告主張の時間数D」のとおりの超過勤務をしたことから,被告に対して,超過勤務手当請求権として,別表中,「原告主張の時間数に対する金額E=A×D」から,既払の超過勤務手当である「支払実績金額C=A×B」を控除した残額である「未払い金額(差額)F=E-C」の支払を求めることができる。
この点,被告は,勤務時間条例規則7条1項では,超過勤務を命じる職務命令は「命令簿」という要式行為であることが厳然と明定されていることから,黙示の職務命令を認定することはそれ自体背理であるばかりか,本件職場においては,管理者が同規則7条2項の運用を原則として行い,職員が補助簿の記載から同規則7条2項の緊急性・必要性の要件に合致する時間について命令簿に記載して,管理課長の決裁を受け,正式に同規則7条2項の要件を満たす超過勤務として扱ってきているのであるから,同規則7条1項の黙示の超過勤務命令の存在を推認することは不可能である旨主張し,証拠(乙4,5,証人P3)中には同主張に沿う部分もある。
たしかに,勤務時間条例規則7条1項は,任命権者は,職員に超過勤務を命ずるときは,命令簿により,あらかじめ勤務することを命じなければならないと規定するところ,本件においては,原告の超過勤務は,管理課長からあらかじめ命令簿により命じられたものでないことは,前記1認定のとおりである。しかしながら,原告を含む職員に対する超過勤務命令については,一定の形式によらなければならない特段の要請があるわけではないから,当該命令は常に明示的にされなければならないものではなく,ことに,既にされた正規の勤務時間以外の勤務に対して超過勤務手当を支給すべきか否かが問題とされる場合には,それが当該命令に基づくものであるかどうかを確認することができれば足りるのであって,同規則7条1項が,命令簿によりあらかじめ勤務することを命じるべきものとしているのも,当該命令の有無及びこれに基づいてされた時間外勤務の内容を明確にしておくためのものにすぎないと解するのが相当であり,命令簿に基づかない明示又は黙示の超過勤務命令を排斥するものとまで解することはできない。したがって,同規則7条1項の規定の存在ゆえに,黙示の職務命令を認定することが背理である旨の被告の主張は理由がない。
また,被告主張に沿う前掲証拠(乙4,5)の作成者である証人P3も,補助簿記載の超過勤務時間のうち5割から6割のみが超過勤務手当支給の対象となっているのは,超過勤務の緊急性・必要性の判断如何によるものではなく,結局は予算の都合によるものであることを認める旨の証言をしていること,予算執行状況通知書,電算入力のための入力用紙,超勤試算入力シート及び年間超勤支給時間集計表の決裁時並びに命令簿の決裁時のいずれにおいても,管理課長において超過勤務の緊急性・必要性を判断するための決裁資料として補助簿が提出された事実はないことや,庶務係給与支給担当者もかかる緊急性・必要性を判断した事実はないこと(証人P2)に照らせば,被告主張に沿う前掲証拠部分は,反対証拠(甲37,38,証人P1,同P2,原告本人)に照らし措信し難い。前記1認定のとおり,毎月20日の補助簿の回収から,庶務係給与担当者による入力用紙,超勤試算入力シート及び年間超勤支給時間集計表の作成と管理課長による決裁,庶務係給与担当者からの各職員に対する命令簿への記入の指示,各職員による命令簿の作成と管理課長による決裁の一連の流れの中で,庶務係給与担当者はもとより係長及び管理課長のいずれも,補助簿記載の各超過勤務について個別にその緊急性・必要性を判断することは一切なく,超過勤務手当を支給すべき超過勤務として命令簿に記入するかどうかは,専ら,超過勤務手当の予算の範囲内におさまるかどうかのみによって決められていたのであって,被告主張のように,本件職場において補助簿の記載から同規則7条2項の緊急性・必要性の要件に合致する時間を吟味して命令簿に記載した上で管理課長の決裁を受ける取扱いをしていたとの事実は全く認められない。したがって,本件職場において同規則7条2項の運用が当該条項の内容どおりに行われてきたが故に,同規則7条1項の黙示の超過勤務命令の存在を推認することは不可能である旨の被告の主張もまた理由がないというべきである。

3 争点(3)(超過勤務手当請求権の消滅時効)について
前記のとおり,地公法58条3項によれば,原告を含む一般職の地方公務員に対し適用除外をしている規定を除いては労基法が原則として適用されるから,賃金等の時効に関する同法115条もまた,原告に対して適用されるべきところ,原告が本訴で請求する超過勤務手当は労働の対償として支払われるべきものであるから,同法11条の賃金に該当し,同法115条により2年間これを行わないときは時効により消滅するものと解される。
本件では,前記第2の1の争いのない事実等(8)のとおり,原告は,被告に対し,平成19年12月14日到達の書面で,平成14年4月1日から平成18年3月31日までの未払の超過勤務手当の支払を請求する催告を行い,その後6か月以内に本訴を提起したから,平成17年12月15日給与支給日支払分以降の超過勤務手当については時効が中断しているものの,平成17年11月15日給与支給日支払分以前の超過勤務手当については,時効により消滅しているというべきである。
この点,原告は,人事委員会に対する措置要求(地公法46条)は,その目的・趣旨・性質・機能に鑑み,「裁判上の請求」(民法149条)に準じて時効中断効を有する旨主張する。しかし,人事委員会による措置要求に対する判定には,裁判上の請求に対する判決のように権利義務の存否を最終的に確定する効力が認められないこと,地方自治法や地公法には人事委員会に対する措置要求に時効中断効を認める規定もないことから,明文上の根拠もなく,措置要求に「裁判上の請求」に準じて時効中断効を付与することはできない。
原告の上記主張は理由がない。
また,原告は被告による消滅時効の援用が権利濫用に当たる旨主張する。
しかし,原告が縷々主張する事実をもっても,原告において適時の権利行使又は時効中断措置を講ずることが不可能若しくは著しく困難にさせる客観的事情があったということはできないし,被告が原告に超過勤務手当の支払がされるであろうとの信頼を惹起させて原告の時効中断措置をとることを怠らせるなどの信義に反する行為をした事実も見当たらないことからすれば,被告の消滅時効の援用が権利濫用に当たるということはできない。原告の上記主張も理由がない。
以上によれば,原告は,労基法37条により,平成17年12月15日給与支給日支払分以降の超過勤務手当として,別表の平成17年12月以降の「未払い金額(差額)F=E-C」の合計額である13万7910円の支払請求権がある。
ただし,被告は,その業務が営利を目的とするものではないから,商法上の商人には当たらず,被告による原告の任用は商行為に該当するものではない。それ故,超過勤務手当の遅延損害金は,商事法定利率の年6分ではなく,民法所定の年5分の割合によるものと解される。
したがって,被告は,原告に対し,超過勤務手当として13万7910円及びこれに対する最終の給与支給日の翌日である平成18年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
なお,争点(4)の不法行為による損害賠償請求については,労基法37条又は勤務時間条例に基づく超過勤務手当請求権のいずれも認められない場合の予備的請求であることから,本件においてこれを判断することを要しないところであるが,前記2のとおり,本件では原告に労基法37条により超過勤務手当請求権が発生している以上,同手当相当額の損害の発生がないというべきであり,不法行為は成立しない。この点,付言するものである。

4 結論
よって,原告の本訴請求は,主文掲記の限度で理由がある。
なお,仮執行宣言については,事案の性質にかんがみ,相当でないからこれを付さないこととする。
東京地方裁判所民事第11部
裁判官 田 中 芳 樹

 

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