残業代請求|福岡の司法書士 にじいろ法務事務所

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名古屋高裁平成20年(行コ)第21号 平成21年11月11日判決

2016-09-10

別紙あり⇒(最高裁ホームページへリンク

主文
1 本件控訴を棄却する。
2 被控訴人らの附帯控訴及び請求の拡張・追加に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は被控訴人甲, に対し,100万9770円及びうち38万7024円に対する平成18年5月30日から,うち1万7696円に対する平成18年11月3日から,うち37万5331円に対する平成20年9月4日から,うち22万9719円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人は,被控訴人乙に対し,93万8107円及びうち39万7488円に対する平成18年5月30日から,うち1万1243円に対する平成18年11月3日から,うち29万0288円に対する平成20年9月4日から,うち23万9088円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人は,被控訴人丙に対し,139万2373円及びうち39万3240円に対する平成18年5月30日から,うち2万9041円に対する平成18年11月3日から,うち7852円に対する平成19年9月8日から,うち72万5949円に対する平成20年9月4日から,うち23万6291円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 控訴人は,被控訴人丁に対し,107万3959円及びうち40万4839円に対する平成18年5月30日から,うち1万4966円に対する平成18年11月3日から,うち2万6684円に対する平成19年9月8日から,うち39万2277円に対する平成20年9月4日から,うち23万5193円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 控訴人は被控訴人戊, に対し,88万2518円及びうち19万8466円に対する平成18年5月30日から,うち3500円に対する平成18年11月3日から,うち1万9000円に対する平成19年9月8日から,うち42万5875円に対する平成20年9月4日から,うち23万5677円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被控訴人らのその余の請求(当審における請求の拡張及び追加分を含め)をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを5分し,その4を控訴人の,その余を被控訴人らの各負担とする。

 

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決中,被控訴人らの請求についての控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記部分に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) 被控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。
(4)(訴えの追加的変更が許される場合の予備的申立て)
被控訴人らが当審で追加した請求をいずれも棄却する。
2 被控訴人ら
(1) 原判決を次のとおり変更する
(2) 控訴人は,被控訴人甲に対し,124万9059円及びうち39万0096円に対する平成18年5月30日から,うち1万4624円に対する平成18年11月3日から,うち65万9951円に対する平成20年9月3日から,うち18万4388円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人は,被控訴人乙に対し,112万1019円及びうち39万7843円に対する平成18年5月30日から,うち1万0888円に対する平成18年11月3日から,うち49万2504円に対する平成20年9月3日から,うち21万9784円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 控訴人は被控訴人丙に対, し,162万2138円及びうち39万3240円に対する平成18年5月30日から,うち2万9041円に対する平成18年11月3日から,うち7852円に対する平成19年9月8日から,うち97万2050円に対する平成20年9月3日から,うち21万9955円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 控訴人は,被控訴人丁に対し,126万2617円及びうち40万9899円に対する平成18年5月30日から,うち1万0649円に対する平成18年11月3日から,うち2万6684円に対する平成19年9月8日から,うち55万5114円に対する平成20年9月3日から,うち26万0271円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 控訴人は,被控訴人戊に対し,107万9083円及びうち19万8466円に対する平成18年5月30日から,うち3500円に対する平成18年11月3日から,うち1万9000円に対する平成19年9月8日から,うち71万8269円に対する平成20年9月3日から,うち13万9848円に対する平成21年2月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 控訴人の控訴を棄却する。

第2 事案の概要
1 本件は,愛知県稲沢市(平成17年4月1日以降。平成14年3月31日までは稲沢市ほか二町消防組合,同年4月1日から平成17年3月31日までは稲沢中島広域事務組合)の消防吏員であり,主幹又は副主幹として管理職手当の支給を受けていた被控訴人らが,控訴人に対し,平成12年度から平成17年度までの間における,労働基準法(労基法)37条3項に基づく深夜勤務手当,同条1項に基づく時間外勤務手当(時間外手当A)及び稲沢市職員の給与に関する条例(給与条例)16条1項,2項2号,稲沢市職員の給与の支給等に関する規則(給与規則)16条の2第2号に基づく時間外勤務手当(時間外手当B)並びに各遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,被控訴人らの請求のうち,時間外手当A及び時間外手当Bの各一部を認め,その余を棄却したことから,控訴人が控訴し,また,被控訴人らが附帯控訴により,平成16年度分及び平成17年度分の深夜勤務手当及び遅延損害金(被控訴人らすべてについて遅延損害金の始期を原審での請求より早めている部分及び被控訴人丁の同手当の一部については請求の拡張となる。)の支払を求め,平成15年度以前の分の同手当及び時間外手当A及びBのうちの原判決が棄却した部分の各請求を減縮するとともに,新たに平成18年度分及び平成19年度分の深夜勤務手当と時間外勤務手当及び各遅延損害金のほか,同各年度における給与条例17条に基づく休日勤務手当及び遅延損害金の各支払を求める請求を追加したものである。

2(1) 被控訴人らの勤務状況に関する事実及び各手当の計算関係については,いずれも当事者間に争いがなく,控訴人は,深夜勤務手当については,給与条例において管理監督職員には時間外勤務手当,休日勤務手当及び夜間勤務手当は支給しない旨定められていること,管理職手当の支給による弁済及び2年間の消滅時効を主張し,時間外手当A及びBについては,同様の主張のほか,労基法41条の管理監督者に該当することをそれぞれ主張している。また,被控訴人らの当審における請求の追加について,控訴人は,請求の基礎に同一性がなく許されないとするほか,予備的に上記と同様の主張をして請求の棄却を求めている。
(2) 本件に関連する条例及び規則については,以下のとおり付加訂正するほか,原判決別紙6「関係条例等」に記載のとおりであるので,これを引用する。
ア原判決62頁24行目の「3項略」を次のとおり改める。
「3項第1項の規定にかかわらず,勤務時間条例第10条第1項の規定により,代休日を指定され,当該代休日に勤務しなかった場合は,当該休日に勤務した全時間のうち全部又は半日に相当する勤務時間市長が別に定( める時間を除く。)に対して,勤務1時間につき,第23条第1項に規定する勤務1時間当たりの給与額に100分の25から100分の50までの範囲内で規則で定める割合を乗じて得た額を休日勤務手当として支給する。」
イ同63頁37行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「第16の7 条例第17条第3項の規則で定める割合は,100分の35とする。」

3 争いのない事実等
(1) 当事者等
被控訴人らは,いずれも稲沢市内における消防活動に従事する消防吏員であり,平成14年3月31日までは稲沢市ほか二町消防組合(本件消防組合)の職員として,同年4月1日から平成17年3月31日までは稲沢中島広域事務組合(本件広域組合)の職員として,同年4月1日以降は控訴人の職員として,それぞれ消防活動及びこれに関連する事務を担当してきた。
本件消防組合は,平成14年4月1日,稲沢市外二町衛生組合及び稲沢中島水道企業団と統合されて本件広域組合となり,その際,本件消防組合の債権債務は本件広域組合に承継された。本件広域組合は,平成17年3月31日に解散し,控訴人は,同年4月1日以降,稲沢市における消防事務を直接所掌することとなったが,その際,本件広域組合の債権債務は控訴人に承継された。なお,本件消防組合及び本件広域組合ともに,その給与に関する条例,給与の支給等に関する規則では,いずれも稲沢市(控訴人)の給与条例及び給与規則を準用する旨定めている。
(2) 被控訴人らの勤務状況
ア深夜勤務手当に関する勤務状況
被控訴人らは,平成16年4月1日から平成18年3月31日までの期間において,原判決別紙9のうちの上記期間に係る「原告(管理職員)夜間勤務」表の各被控訴人の夜間勤務時間合計欄に記載の時間数の勤務を午後10時から翌日午前5時までの間(深夜時間帯)に行った(後記の仮眠時間中の出動に係る時間を除く。)。
また,被控訴人らは,平成18年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)及び平成19年度(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)において,本判決別紙1「請求額表」の各年度における「深夜割増手当」の「時間」欄記載の時間数の勤務を午後10時から翌日午前5時までの間(深夜時間帯)に行った(後記の仮眠時間中の出動に係る時間を除く。)。
イ時間外手当Aに関する勤務状況
被控訴人らは,平成16年10月1日から平成18年3月31日までの期間において,仮眠時間中に,原判決別紙10のうちの同期間に係る「仮眠時間中の出動(時間外・深夜勤務)」表の各被控訴人欄記載の時間数の火災出動,警戒出動,救急支援,調査出動を行った。
ウ時間外手当Bに関する勤務状況被控訴人らは,平成17年8月から平成18年2月までの期間の週休日において,原判決別紙11のうちの同期間に係る「原告Bら週休日等勤務表」の各業務内容欄に記載の各種訓練等の行事に参加したものであるが,これらの行事に参加した時間数は同表の各実働時間欄に記載のとおりである。
エ平成18年度及び平成19年度の時間外勤務手当に関する勤務状況被控訴人らは,平成18年度及び平成19年度において,本判決別紙1「請求額表」の各年度における「時間外勤務手当」の各「時間」欄記載の時間数の時間外勤務を行った。
オ平成18年度及び平成19年度の休日勤務手当に関する勤務状況被控訴人らは,平成18年度及び平成19年度において,本判決別紙2「平成18年度休日勤務手当」表及び別紙3「平成19年度休日勤務手当」表記載の各祝日等に「時間」欄記載の各時間にわたって勤務を行った。
カ支給を受けていた給与
被控訴人らは,平成16年4月1日から平成18年3月31日までの期間は,原判決別紙12「原告Bら給与表」の同期間の欄に記載のとおりの給料(基本給)及び管理職手当の支給を受けており,平成18年4月以降も,同年3月と同額の管理職手当の支給を受けている。
キ給与の支給日等
被控訴人らの給与の計算期間は,当月の1日から末日までとされており,当月分の給与の支給日は当月21日(休日,土曜日及び日曜日に当たるときは,21日に最も近い日で,休日,土曜日又は日曜日でない日)とされていた(給与条例9条1項,給与規則2条1項)。ただし,当月の勤務において発生した時間外勤務手当,夜間勤務手当,休日勤務手当は,その翌月の給与の支給日に支給することとされていた(給与規則16条)。

4 被控訴人らの主張
(1) 深夜勤務手当の請求について
被控訴人らは,労基法37条3項に基づく深夜勤務手当として,3(2)ア記載の勤務時間につき,勤務1時間当たりの給与額に100分の25の割合を乗じた金額の支給を受けることができる。
よって,被控訴人らは,控訴人に対し,本判決別紙4の「夜間勤務手当」表の「16年17年合計」欄記載の各金額の金員及びこれらに対する支給日の後である平成18年5月30日から(原審での請求より始期を早めている部分については請求の拡張となる。)支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金,並びに本判決別紙1の「請求額表」の平成18年度及び平成19年度の「深夜割増手当」欄記載(平成18年度及び平成19年度の各月における手当の内訳は本判決別紙5の各被控訴人に係る「時間外勤務手当及び深夜勤務手当」表の「夜間勤務手当」欄記載のとおり。)の各金額の金員及びこれらに対する当審における請求の拡張に係る書面の送達の日の翌日から支払済みまで前同様の遅延損害金の各支払を求める。
(2) 時間外手当Aの請求について
被控訴人らは,労基法37条1項に基づく時間外勤務手当として,3(2)イ記載の勤務時間につき,勤務1時間当たりの給与額に100分の125(深夜時間帯に係る勤務については労基法施行規則20条1項により100分の150)の各割合を乗じた金額の支給を受けることができる。
よって,被控訴人らは,控訴人に対し,本判決別紙6「平成16,17年度時間外勤務手当請求額」表の「時間外勤務手当A」欄記載の各金額の金員及びこれらに対する支給日の後である平成18年11月3日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
(3) 時間外手当Bの請求について
被控訴人らは,前記3(2)ウ記載のとおり,週休日として指定された日又は休日において勤務したものであるから,給与条例16条1項に基づく時間外勤務手当として,同条2項2号及び同規則16条の2第2号により,勤務1時間当たりの給与額に100分の135の割合を乗じた金額の支給を受けることができる。
よって,被控訴人らは,控訴人に対し,本判決別紙6「平成16,17年度時間外勤務手当請求額」表の「時間外勤務手当B」欄記載の各金額の金員及びこれらに対する支給日の後である平成19年9月8日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
(4) 平成18年度及び平成19年度の時間外勤務手当の請求について
被控訴人らは本判決別紙1「請求額表」の各年度における「時間外勤務手当」の各「時間」欄記載の時間数の時間外勤務について,労基法37条1項に基づく時間外勤務手当として,勤務1時間当たりの給与額に100分の125(深夜時間帯に係る勤務については労基法施行規則20条1項により100分の150,休日の深夜時間帯に係る勤務については同条2項により100分の160)の各割合を乗じた金額,給与条例16条1項に基づく時間外勤務手当として,同条2項2号及び給与規則16条の2第2号により,勤務1時間当たりの給与額に100分の135(代休を取得した場合は100分の35)の各割合を乗じた金額の支給を受けることができる。
よって,被控訴人らは,控訴人に対し,本判決別紙1「請求額表」の「時間外勤務手当」の「合計金額」欄記載(平成18年度及び平成19年度の各月における手当の内訳は本判決別紙5の各被控訴人に係る「時間外勤務手当及び深夜勤務手当表の」「時間外勤務手当」欄記載のとおり。)の各金額の金員及びこれらに対する当審における請求の追加に係る書面の送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
(5) 平成18年度及び平成19年度の休日勤務手当の請求について
給与条例17条,給与規則16条の6によれば,祝日法による休日及び年末年始の休日の勤務については,勤務1時間当たりの給与額に100分の135の割合を乗じた金額の休日勤務手当の支給を受けることができる(ただし,年間120時間分は代休を取得することから,年度の当初から120時間に達するまでの分は100分の35の割合を乗じた金額,120時間を超える分は100分の135の割合を乗じた金額となる。)。
よって,被控訴人らは,控訴人に対し,本判決別紙1「請求額表」の平成18年度及び平成19年度の「休日勤務手当」の「金額」欄記載の各金額の金員及びこれらに対する当審における請求の追加に係る書面の送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
(6) 控訴人の条例上の管理監督職員の抗弁について
管理職手当には,深夜勤務手当,時間外勤務手当及び休日勤務手当に相当する分が含まれているとはいえない。
給与条例10条3項は,労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(労基法上の管理監督者)についても適用を除外していない深夜業による割増賃金に係る労基法の規定に反するもので,無効であるから,深夜勤務手当に関する控訴人の抗弁は失当である。
また,給与条例10条3項が,労基法上の管理監督者に当たらない者に対しても時間外勤務手当等を支給しない趣旨であるとすれば,同規定はそのような趣旨の限度において,労基法37条1項,41条に反し,無効である。
(7) 控訴人の労基法上の管理監督者の抗弁について
被控訴人らは,部長(消防長),次長(署長),課長に次ぐ主幹又は副主幹の職位にとどまる者であり,上司の命を受けて所属職員を指揮し,所管職務を処理するのみであって(稲沢市消防署の組織等に関する規程5条5項,甲14),消防本部の行政運営の基本方針や重要施策等について審議する庁議の構成員ではなく(稲沢市消防本部庁議規程3条,甲16),任命権者ないし管理者(平成17年4月1日以降については市長)と一体的な地位にあるとはいえない。
また,被控訴人らには,出退勤時間を上司に管理され,勤務時間中に庁舎外に出ることを禁じられているなど,出退勤や休暇について裁量や決定権又は決裁権が認められていない(稲沢市消防本部交替制勤務職員の勤務時間等に関する内規参照,甲17)。
他方,被控訴人らは,現場指揮等の重責を担っており,管理職手当は,かかる重責の対価と解すべきであるし,被控訴人らは,管理職員となって以降,時間外勤務手当等が支給されなくなったことにより,非管理職員として勤務していたときと同様の勤務実態にあったにもかかわらず,給与の総支給額が従前より減少したことから明らかなように,給与上の優遇はされていない。
以上によれば,被控訴人らは,労基法上の管理監督者には当たらない。
(8) 控訴人の弁済の抗弁について
ア割増賃金を労基法37条所定の計算方法によらずに支給する場合には,給与支給の形式上,割増賃金部分とそれ以外の賃金部分とが明確に区別でき,かつ,割増賃金部分が時間外労働等に対する対価としての実質を有するものとして,労基法で計算した割増賃金の額を上回ることが必要である。
しかるに,控訴人は,被控訴人らに支給された管理職手当が深夜勤務手当分や時間外勤務手当分,休日勤務手当分を含むとする計算根拠を示しておらず,給与条例上も支給の形式上も,割増手当部分とそれ以外の役職手当等の部分が明確に区別されているものでもない。
また,管理職手当は,日勤者である条例上の管理監督職員についても等しく支給されていることに照らすと,管理職手当には,そもそも深夜勤務や時間外勤務,休日勤務に対する対価としての実質がなく,そのほぼ全額が管理職員としての職責の重さに対して支給されるものというべきである。現に,被控訴人らは,火災現場における小隊長として,現場指揮に当たるなどの重責を果たしてきたものである。
イ地方公務員の給与の取扱いに関する行政実例や国家公務員のうち給与の特別調整額を受ける者との対比についての控訴人の指摘は,国家公務員と地方公務員にそれぞれ適用される法令の違いを看過している。控訴人の管理職手当と国家公務員に支給される給与の特別調整額が同額であるからといって,国家公務員のうち同調整額の支給を受ける者と同様に深夜勤務手当,時間外勤務手当及び休日勤務手当を支給しなくてもよいということにはならない。
ウ原判決が指摘する行政実例の存在を理由に,管理職手当の中に深夜勤務手当が含まれているとするのは合理的でない。
条例は各地方自治体ごとに独自に運用されるものであり,控訴人の給与条例10条1項の「管理又は監督の地位にある職員」の意味も条例の解釈によって定まるものである。これを労基法41条2項の管理監督者と同意義に解さねばならない必要性はない。
被控訴人らが労基法上の管理監督者に当たらないことは明らかだが,他方,被控訴人らが現場指揮者という重大な管理的業務を担っていることもまた事実であり,そのために,給与条例上,被控訴人らは管理職とされているのである。したがって,給与条例に従って,その管理的業務に対して月額4~5万円程度の管理職手当を支給することは,給与条例主義に反するものではなく,合理的な運用というべきである。
このように控訴人においては労基法上の管理監督者に該当しない者にも管理職手当が支給される運用がなされている以上,給与条例10条3項を労基法に反しないように解釈する必要があり,そのためには同項は労基法上の管理監督者に該当しない者には適用されないと解すべきである。
稲沢市においては,一方で給与条例の「管理職手当」の規定の文言に自治省のひな形と同様の文言を用いながら,他方で,稲沢市職員の給与の支給等に関する規則5条に,管理職手当の支給対象として「主幹」「副主幹」等を含め,その支給額については超過勤務手当等相当額を十分に補うような程度にはしてこなかった。稲沢市では,「管理職手当」の支給範囲についても,支給の程度についても,労基法上の「管理監督者」概念と合致しない形で規則等細則が整備され,長い年月に亘って運用されてきた。条例の形式的な文言と実際の運用とが齟齬をきたすという,法と実態とが乖離した状態に長らく置かれてきたのである。このような場合,時間外手当等の支給について,一般的な行政実例とは異なることになろうと,その実態に従って上位規範である労基法の規制に適合するように解釈されるべきことは当然である。
すなわち給与条例の場, 合は,10条1項で管理職手当を支給すべき「管理又は監督の地位にある職員」には労基法上の管理監督者に当たらない者が含まれているのであり,同条例10条3項は,文言上「第1項に規定する職員の職にある職員」と規定されてはいるものの,それを労基法上の管理監督者に当たらない者についてまで適用することは違法となる。その限りで同項は無効と解釈すべきことになるのである。
そして,被控訴人らは労基法上の管理監督者ではないにしても,非管理職員とは異なる特別の管理的業務を担っているのであり,主幹,副主幹に対する管理職手当は,その管理的業務に対する手当として合理的な支給であって,単なる時間外勤務手当等の代償措置的な支給ではない。また,自治体が「管理職」として定めた地位の職務に関して,その職務内容の特殊性に基づいて「管理職手当」を支給するものである以上,それが時間外勤務手当等の代償以外の内容を有するとしても地方自治法,給与条例主義に抵触するものではない。
また,被控訴人らが受給している管理職手当の額は,日勤(深夜勤務のない)の主幹,副主幹相当職の職員の受給額と変わらないのであり,被控訴人らの管理職手当に深夜勤務手当が含まれているとはいえない。そして,深夜勤務手当が管理職手当に含まれているとすれば,時間外勤務手当や休日勤務手当相当分も含まれていることになるが,それでは各手当の合計額が管理職手当の額を上回ってしまう。主幹又は副主幹職と一般の消防吏員との比較においても,それぞれの本給の額に管理職手当の額あるいは上記の各手当の合計額を加えた金額とでは一般職員の方が主幹及び副主幹職の受給額を上回ることになり,主幹又は副主幹職が優遇されているということはできない。
エまた,控訴人の弁済の抗弁に係る主張は,名目の異なる手当間の流用を求めるものであって,給与条例主義に反することからも認められない。
(9) 控訴人の消滅時効の抗弁について
控訴人は,自らが定めた給与条例,給与規則に反して,又は正しい解釈,運用基準に反する取扱いを行って,被控訴人らの正当な権利の享受を妨げてきた。消防職員たる被控訴人らは,職員団体を結成して当局と交渉する権利を含めて労働三権がすべて奪われており,ILOの勧告に従って設置された消防職員委員会もこれらの代替手段となるものではない。被控訴人らは,このように封建的で,自由にものが言えない職場に勤務していたために,取扱いの是正を求めることができなかった。
以上の事実関係によれば,控訴人が消滅時効を主張することは信義則に反する。
(10) 控訴人の権利濫用の抗弁について
被控訴人らに対する管理職手当は時間外勤務手当等の代償措置的な支給ではないから,時間外勤務手当等とは別に管理職手当が支給されることも給与条例主義に反するものではない。控訴人の権利濫用の抗弁はその前提からして妥当しない。
被控訴人らは,主幹,副主幹等の労基法上の管理監督者に当たらない者に時間外手当等が支給されていないという違法状態の是正を求め続け,そのために管理職手当の見直しが必要であればそれも否定しない立場で控訴人と交渉してきたものであるが,管理職手当の見直しを拒み続け,その支給に拘ってきたのは控訴人である。
このような経緯を無視して,管理職手当の受給が不当利得に当たるとする控訴人の主張こそ信義則に反する。

5 控訴人の主張
(1) 当審における被控訴人らの請求の追加について
平成18年度及び平成19年度の深夜勤務手当,時間外勤務手当及び休日勤務手当の請求は,本件における従前の各請求と請求の基礎の同一性を欠くものであるから,請求の追加は許されず,訴えの変更不許の裁判がなされるべきである。
(2) 条例上の管理監督職員の抗弁
被控訴人らが支給を受けている管理職手当は,深夜勤務手当,時間外勤務手当及び休日勤務手当に相当する分を含むものであり,これを受けて,給与条例10条3項は,条例上の管理監督職員に対して,深夜勤務手当,時間外勤務手当及び休日勤務手当を支給しない旨を定めている。
被控訴人らの給与は条例に基づいて支給されるべきであるから(地方自治法25条1項参照被控訴), 人らには深夜勤務手当,時間外手当A,時間外手当B,当審において請求が追加された平成18年度及び平成19年度分の同各手当及び休日勤務手当の支給を受ける権利はない。
(3) 時間外手当A,時間外手当B及び当審において追加された平成18年度及び平成19年度分の時間外勤務手当の各請求に対する労基法上の管理監督者の抗弁ア被控訴人らが担っている以下の職務内容から明らかなように,被控訴人らは,勤務条件の決定やその他の労務管理について,任命権者である消防長の職務の一部を代行して,これと一体的な立場にあったものである。
臨機応変な対応が求められる消防活動の最前線にあっては,現場指揮者の指揮命令権を確立し,指揮命令体制の徹底を図る必要がある。課長以上の役職者が恒常的に不在となる夜間,土日及び祝日においては,主幹及び副主幹職は最上位職者として,消防活動全般の指揮,隊員の増強等の決定,災害出動に伴う各隊員に対する時間外勤務命令の発令等を行っている。
また,控訴人消防本部における消防活動は,主幹及び副主幹職以下の交替勤務番を活動単位として実施される。その規模や独立性において,都市銀行以外の金融機関における支店に類するものであり,その長である主幹及び副主幹は,行政通達(昭和52年2月28日基発105号)で労基法上の管理監督者的地位にあるとされている支店長と同等かそれ以上の権限と責任を有している。災害現場での指揮ばかりでなく,所属職員の労務管理に関しても,主査以下の者に対する「休暇等の承認」「時間外勤務命令」「週休日の指定」の決裁は実質的には主幹及び副主幹職が行っているのである。
(ア) 年度当初において,他係の主幹及び副主幹と調整の上,所属職員の週休日の割り振り・指定の業務を実質的に行う。
(イ) 年度当初において,所属職員の担当事務(水利,防水査察,統計等)の指名業務を行う。
(ウ) 所属職員から年次有給休暇の届出があった場合,人員を把握し,割り振りを実施して,必要に応じて取得日の調整や時季変更権の行使等の事務を実質的に執り行う。また,病気休暇,特別休暇,介護休暇及び組合休暇の承認申請があった場合も,人員を把握し,割り振りを実施して,同申請の承認事務を実質的に行う。
(エ) 当務日における各消防車両への搭乗人員の配置を行う。
(オ) 主幹及び副主幹より上位である課長以上の職位者は日勤となり,かつ,土日・祝日には出勤しないため,これにより課長以上の者が不在となる勤務時間及び仮眠時間において,当務職員に対して,災害出動に伴う時間外勤務命令を発したり,休憩時間の繰り上げ,繰り下げの指示を発する。
(カ) 消防士から消防副士長へ,消防副士長から消防士長への昇任試験に当たり,所属職員の勤務評定を行い,勤務評定表を提出する。
(キ) 所属職員の時間外勤務について,事案終了書を確認し,時間外勤務命令簿への記載事務を行う。
(ク) 当務日の人員及び機械器具等の異常の有無を把握する業務を行う。
(ケ) 火災現場における統括指揮者は現場指揮者であるところ,現場指揮者には,分隊で活動する場合は分隊長,小隊で活動する場合は小隊長,中隊で活動する場合は中隊長が当たるが,中隊長不在の場合は小隊長が当たることとされている。分隊長及び小隊長には主幹・副主幹が当たり,中隊長には課長が当たることとなっている。このため,主幹・副主幹は,分隊ないし小隊で活動する場合,課長が不在である土日・祝日及び夜間において,火災現場で,消防活動全般の指揮,情報収集及び災害状況の把握,隊員の安全確保,隊の増強又は削減の決定,並びに火勢鎮圧及び鎮火の決定を行う。
イまた,被控訴人らは,割り振られた勤務時間以外にも管理職員としての補勤対応が続き,休憩時間や仮眠時間が全くとれなくなることもあり,その勤務態様は,労働時間や休暇等に関する労基法の規制になじむものではない。主幹・副主幹も,非管理職員の所定勤務時間に署内に常駐し,火災が起これば仮眠時間中といえども非管理職員と共に出動するのであるが,これは消防の業務の特殊性と職責によるものであって,これを理由にそのの勤務態様が労働時間の規制になじむものであると評価すべきではない。
上位職から点呼を受けたり,出退勤についてタイムカードや出勤簿による管理を受けることもないのである。
ウそして,被控訴人らに対しては,給与条例10条1項に基づく管理職手当が支給されているところ,かかる管理職手当の金額は,労働時間や休暇等に関する労基法の規制の枠を超えて活動することが要請される被控訴人らの職責に十分見合った待遇である。
平成19年時点における管理職手当の額は,主幹が4万9600円,副主幹が4万6300円であり,この金額は,時間外勤務手当及び休日勤務手当の支給がない民間企業の課長相当職の役職・職責手当の全業種平均額である4万4236円を優に上回り,かつ,深夜勤務手当を吸収して余りある金額である。
エ以上のとおり,被控訴人らは,労基法41条2号の管理監督者に当たるから,被控訴人らの時間外手当A,時間外手当B,当審で請求が追加された平成18年度及び平成19年度分の時間外勤務手当の各請求は理由がない。
(4) 弁済の抗弁
ア被控訴人らの請求に係る深夜勤務手当,時間外手当A,時間外手当B,当審で請求が追加された平成18年度及び平成19年度分の深夜勤務手当,時間外勤務手当並びに休日勤務手当は,いずれも管理職手当の支給により弁済済みである。
(ア) 労基法37条所定の割増賃金を支給するに際しては,必ずしも同条所定の計算方法によることを要するものではなく,かかる計算方法による金額を上回るものである限り,割増賃金として定額の手当を支払うことも許されると解すべきである。
(イ) 行政実例
行政実例によれば,管理職手当には労基法37条に規定する深夜の割増賃金に相当する額を含むように定めることが適当であるとされているところ,給与条例10条1項に基づく管理職手当は,かかる行政実例に倣って金額が定められたものである。
(ウ) 国家公務員との対比
俸給の特別調整額の支給を受ける国家公務員に対して,一部の例外を除き,超過勤務手当,休日給及び夜勤手当が支給されないこととされていることから明らかなように,俸給の特別調整額には,前記超過勤務手当等に相当する分が含まれている。そして,給与条例10条1項に基づく管理職手当は,国家公務員の俸給の特別調整額に倣って金額を定めたものである(例えば,控訴人の副主幹相当職に対して支給される管理職手当の金額は,一般行政職の国家公務員のうち職務の級を4級,区分を五種とする者に対して支給される俸給の特別調整額と同額である。)。
地方公務員の給与に関する均衡の原則(地方公務員法24条3項)については,給与事務の運用上,国家公務員の給与に準ずることによって,その趣旨が実現されるものと解すべきである。
また,国土交通省航空管制部の次席航空管制官など,国家公務員の中にも交替制勤務に従事する者で俸給の特別調整額の支給を受ける管理職員が存在する。同部には同管制官と同等の課長相当職である先任航空管制官と課長がおり,後二者は,交替制勤務には従事しないものの,三者間に俸給の特別調整額の差異は設けられていない。
(エ) 民間事業者における役職手当との対比
愛知県経営者協会の会員企業995社のうち275社において,課長相当職及び係長相当職に対してそれぞれ支給されている役職手当の全業種平均額(課長相当職4万4236円,係長相当職1万6528円)と控訴人給与条例10条1項に基づく管理職手当の金額(課長相当職6万2300円,副主幹相当職4万6300円)を対比すると,民間事業者の課長相当職に対して深夜勤務手当が支給されるとしても,その役職手当と控訴人課長職に対する管理職手当の差額である1万8000円余りは,被控訴人らの請求に係る深夜勤務手当の金額を吸収して余りある額といえる。
また,控訴人の主幹・副主幹は,民間事業者でいえば,課長補佐級の職位であり,民間事業者の係長相当職よりも若干上位の職位であるところ,控訴人の副主幹相当職に対して支給される管理職手当と民間事業者の係長相当職に対して支給される役職手当の差額である3万円弱は,時間外勤務手当及び休日勤務手当に深夜勤務手当を加味したとしても,被控訴人らの請求に係る各手当を吸収して余りある金額といえる。
(オ) 加えて,被控訴人らに対して支給されてきた管理職手当の額は,被控訴人らの請求に係る深夜勤務手当,時間外手当A及び時間外手当Bが支払われたと想定した場合の合計支給額を優に上回る(平成16年度及び平成17年度を通算すると,被控訴人らに支給された管理職手当に占める被控訴人らの請求に係る金額の割合は30%前後にとどまっている。なお,日勤者である。) 条例上の管理監督職員の所定勤務時間外及び週休日における勤務時間数は,被控訴人らのそれを遙かに上回っている。
イ管理職手当の支払が,時間外勤務手当,深夜勤務手当及び休日勤務手当を支給しないことの代償措置としての一面を有することは,給与条例10条1項に基づく管理職手当の支給が,同条3項による時間外勤務手当,休日勤務手当及び深夜勤務手当の不支給と一対のものとして定められていることから明らかであり,原判決が指摘するような,支払の要否に関する控訴人の認識や行政実例の存否(時間外手当及び休日勤務手当については労基法により当然に支払う必要がないことから照会もなされず,その結果行政実例が存しないにすぎない。)によって左右されるものではない。また,副主幹以上の管理職については,「管理職手当の支給」と「時間外勤務手当,休日勤務手当及び夜間勤務手当の不支給」が一体となって,国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与と均衡が保たれるようにされているのである。
ウ地方公務員の給与は,普通地方公共団体の定める条例に基づいて支給されなければならず(給与条例主義),手当については地方自治法204条2項が制限的に列挙する手当の範囲で支払わなければならない。そして,手当のうち「管理職手当」については,その支給の対象となる職員は,労働時間等に関する労基法の規定の適用を受けない同法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」とすべきであり,この手当の支給される者には時間外勤務手当は支給すべきでないとされ,管理職手当の支給を受ける職員は,時間外手当をはじめ,夜間勤務手当及び休日勤務手当の支給を受けることができないとされている(乙44)。
控訴人は,被控訴人らに対し,条例及びその委任を受けた規則に基づいて管理職手当を支払っているものであり,割増賃金に代えて支払われている管理職手当の趣旨から,この支払をもって労基法上の時間外・休日勤務手当及び深夜勤務手当に充てることは,条例上の名目の異なる手当間の流用とは異なり,何ら給与条例主義に反するものではない。
もっとも,被控訴人らが,主幹又は副主幹であっても,管理又は監督の地位にある職員には該当しないとすれば,地方自治法,地方公務員法及び控訴人の給与条例による管理職手当の被控訴人らへの支給は形式的には給与条例主義に違反することとなる。
しかし,上記のとおり給与条例に規定される「管理職手当」は,労基法上の時間外・休日勤務手当及び深夜勤務手当を含み,あるいはこれらに代えて支払われるものであり,被控訴人らに支給された管理職手当が,その性質に従って時間外勤務手当等に充当されるのであれば,上記条例の趣旨に鑑みて,実質的には給与条例主義に反しないということができる。
エ以上によれば,被控訴人らの請求に係る深夜勤務手当,時間外手当A,時間外手当B及び当審で請求が追加された平成18年度及び平成19年度分の深夜勤務手当,時間外勤務手当並びに休日勤務手当が,管理職手当の支給により弁済済みであることは明らかである。
(5) 消滅時効の抗弁
被控訴人らの請求に係る平成17年度以前の深夜勤務手当のうち支払期限が平成16年5月18日以前に到来するもの,時間外手当Aのうち支払期限が平成16年10月31日以前に到来するもの,そして,時間外手当Bのうち支払期限が平成17年9月4日以前のものは,いずれも時効により消滅した。
また,被控訴人らが当審で追加した請求については,平成18年度及び平成19年度分の時間外勤務手当及び休日勤務手当のうち支払期限が平成18年9月1日以前に到来するもの,平成18年度及び平成19年度分の深夜勤務手当のうち支払期限が平成19年2月17日以前に到来するものは,いずれも時効により消滅した。
被控訴人らは,消滅時効の主張が信義則に反するというが,本件両事務組合や控訴人が被控訴人らの権利行使を妨げたような事実はなく,被控訴人らはいつでも訴訟を提起するなどして本件請求を行うことが可能であったもので,消滅時効を主張することが信義則に反することはない。
(6) 権利濫用の抗弁
被控訴人らに対する管理職手当の支給が給与条例主義に反すると解される場合には,被控訴人らの本訴請求は権利濫用として許されない。
すなわち,被控訴人らは,副主幹又は主幹になって以降,自らが管理監督者でないことを認識していたのであるから,本来,管理職手当の支給を受けることができないことを知りながら,管理職手当の不当利得を続けていたものである。また,管理職手当と,条例上の時間外勤務手当及び夜間勤務手当,労基法上の時間外勤務手当との併給は地方自治法,地方公務員法及び条例上認められない。しかるに,被控訴人らは,本訴請求にあたり,不当利得した管理職手当を返還していない。
地方公共団体の財政運営は,住民の租税負担を基礎として,高度の公共性を有する公金の管理に関するものであるので,特に公正な運営が要請され(財政運営公正の原則一方), ,憲法15条2項によれば,すべての公務員は「全体の奉仕者」であって,常に住民全体の利益を念頭において職務を行わなければならない。
被控訴人らは,住民全体の奉仕者であるにもかかわらず,不当利得を認識しながら管理職手当の支給を受け,これを返還することなく,併給が認められない時間外勤務手当等の請求をなすものであって,このような請求は信義則上許されるものではなく,権利濫用として認められない。
(7) 平成18年度及び平成19年度の休日勤務手当に係る請求について祝日法による休日であっても,勤務日として正規の勤務時間が割り振られているのであれば,この日の勤務は給与条例16条の時間外勤務手当の対象ではない。
そして,給与条例17条所定の休日勤務手当は,祝日法による休日に勤務したこと等に対する代償として支給されるものであり,勤務日でない日の労働に対して支給される労基法の休日勤務手当とは異なり,条例によって創設された特別の手当である。したがって,給与条例に基づく休日勤務手当の支給対象者の範囲については,まさしく給与条例主義が妥当する範疇であり,被控訴人らが管理職員であることを理由として,給与条例10条3項によりこれを支給しなかったとしても,その取扱いにつき労基法の規律を受けるものではない。祝日法による休日の勤務については,正規の勤務時間が割り振られた勤務日として,給料が支払われており,それで必要かつ十分である。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,被控訴人らの請求(当審において拡張及び追加した請求を含む。)は,時効により消滅したと認められる分及び当審で遅延損害金の始期を早めて請求を拡張した分を除いて,主文第2項(1)ないし(5)記載の金額及び遅延損害金の各支払を求める限度で理由があり,認容すべきものであるが,その余は棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
なお,被控訴人らによる当審における請求の追加については,平成17年度分までの本件各手当の支払を求める従前の請求と同一の法律関係に基づいて,その後の平成18年度及び平成19年度分における同様の各手当及びこれに付加して休日勤務手当の各支払を求めるものであって,その各請求の基礎となる事実関係及び法律関係はいずれも同一の労働関係に基づく勤務に起因し,共通性を有するものであること,いずれについても給与条例10条1項及び3項の解釈,適用が問題となり,その争点は同一で,訴訟資料も共通であることが認められることから,請求の基礎に変更はないものと解される(なお,原審においても,時間外手当A及びBの各請求が訴えの変更により追加されているが,これについては控訴人は異議を述べていない。)。そして,この請求の追加によって新たに格別の証拠調べが必要となるものでもなく,従前の請求に係る争点についての双方の主張の整理,補充等のために期日を重ねる必要もあった本件にあっては,そのために著しく訴訟手続を遅滞させることとなるわけでもない。
したがって,被控訴人らによる当審における請求の追加は許されるものであり,これが許されないとする控訴人の主張は理由がない。
2 本件各手当に関する被控訴人らの勤務状況等については前記第2の3に記載したとおりであり,それを前提とする各手当の額の計算関係についても当事者間に争いがない。そこで,以下,控訴人の各抗弁事実について順次検討することとする。

3 条例上の管理監督職員の抗弁について
(1) 給与条例10条1項は,管理又は監督の地位にある職員の職のうち市長が規則で指定するものについて管理職手当を支給することとし,また,同条3項は,第1項に規定する職員の職にある職員には,時間外勤務手当,休日勤務手当,夜間勤務手当は支給しないこととしている。そこで,控訴人は,被控訴人らが,同条1項及び3項の管理監督職員であることを理由に,被控訴人らは本件各手当の支給を受ける権利がないと主張している。
(2) 証拠乙26 35 44( , , ないし46)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人の給与条例は,他の地方自治体と同様に国から示されたひな形をもとにして制定されたものと推測されるところ,昭和36年8月15日自治省公務員課長回答「管理職手当,暫定手当の取扱いについて」では,「管理職手当とは,管理又は監督の地位にある職員の職務の特殊性に基づき支給する手当である。その性質は,一般職の職員の給与に関する法律第10条の2に規定する俸給の特別調整額と同様と解する。支給対象は,労働基準法第41条第2号に規定する「監督若しくは管理の地位にある者」とすべきものと解する。この手当の支給される者には時間外勤務手当は支給すべきではない。また,定額制とすることは,その額がその職の実態に相応するものと認められる場合は差支えないものと解する。」とされていること(乙44),控訴人の給与条例10条1項の管理職手当の支給に関する規定の文言は,一般職の職員の給与に関する法律10条の2第1項の俸給の特別調整額に関する規程の文言と同様である上(乙26),この特別調整額には超過勤務手当及び夜勤手当が含まれると解されていること(乙35),そして,給与条例10条1項の管理職手当の支給の定めと同条3項の時間外勤務手当,休日勤務手当及び夜間勤務手当の不支給の定めが一対のものとして規定されていること等からすれば,給与条例10条1項の「管理又は監督の地位にある職員」及び同条3項の「第1項に規定する職員」は,いずれも労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(労基法上の管理監督者)と同義と解するのが相当である。
(3) そして,労基法の管理監督者の意義については,労基法41条2号が管理監督者に対しては同法の定める労働時間,休憩及び休日に関する規定を適用しないものとしている趣旨が,管理監督者は,その職務上の性質や経営上の必要から,経営者と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されるような重要な職務と責任,権限を付与され,実際の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にあり,その一方で,賃金等の待遇面で他の一般の従業員に比してその地位に相応しい優遇措置が講じられていることや,自己の労働時間を自ら管理できることから,労基法の労働時間等に関する規制を及ぼさなくてもその保護に欠けるところはないと考えられることによるものと解されることから,これに基づいて判断することが必要である。
具体的には,当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているか,経営や労務管理等に関する重要事項にどの程度関与しているか,出退勤を管理されることなく,勤務時間についてある程度の自由が認められているか,給与や手当等においてその地位と職責に相応しい待遇がなされているか等について検討し,実質的,総合的に判断すべきものということができる。したがって,いわゆる管理職手当が支払われているとしても,そのことだけをもって,その労働者を管理監督者と認めることはできない。
(4) そこで,被控訴人らが上記の意義を有する管理監督者に該当するか否かを検討するに,当裁判所も原判決と同様,被控訴人らは上記の意義における管理監督者に該当しないと判断するものであるが,その前提としての被控訴人らの主幹又は副主幹としての控訴人の消防組織上の地位や権限,勤務時間やその管理等の勤務状況,給与等の待遇についての当裁判所の認定及び被控訴人らが管理監督者に該当しないと判断する理由は,以下に付加訂正するほか,原判決の事実及び理由の第3の2(1)イ及びウ(原判決36頁21行目から42頁24行目まで)の記載と同じであるから,これを引用する。
ア原判決36頁23行目の「乙34」を「乙15,25,34」に改める。
イ同39頁11行目の「重要事項」を「行政運営の基本方針,重要施策等」に改める。
ウ同40頁22行目の「平成18年3月」を「平成19年3月」に,24行目の「平成18年規則第15号」を「平成19年規則第9号」に,それぞれ改める。
エ同40頁25行目の末尾に続けて,「そして,平成19年4月以降は,管理職手当は主幹が月額4万9600円,副主幹が月額4万6300円の定額制に変更され(ただし,経過措置基準額が設けられ,同額との差額の一定割合が管理職手当として支給される措置が講じられている。),また,平成21年4月から副主幹職は廃止された。」を加える。
オ同41頁5行目の「本件請求額」の前,8,9行目の「本訴請求」の前に,それぞれ「請求の追加前の」を加える。
カ同42頁9行目の「なじむものである。」の次に「控訴人は消防の業務の特殊性によるものであると主張するが,被控訴人らの勤務態様が非管理職員のそれと同様であることは前記認定のとおりであって,被控訴人らの勤務態様について異なる評価をすべきものとは思われない。」を加える。
キ同42頁14行目の「いうべきである。」の次に「控訴人は,課長以上の役職者が不在の場合には主幹・副主幹が消防活動全般の指揮等を行うことや,交替勤務番の規模と独立性,労務管理に関する実質的な決裁等を理由に,消防長と一体的な立場に立つものである旨主張するが,被控訴人らが夜間等の一定の場合に現場指揮者になることがあり得るとしても,恒常的に位置づけられているわけではなく,その余の点を含めてみても,上記の各事実と併せて総合的に判断するかぎり,控訴人の主張は認められない。」を加える。
ク同42頁18行目の「特殊手当が支給される」を「特殊勤務手当が平成17年3月までは支給されていた」に改める。
ケ同42頁19行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「控訴人は,消防吏員が主幹職まで昇格した場合と主査職にとどまっている場合とを比較して,主幹・副主幹が本給において一般の消防吏員より優遇されていることを指摘するが,上位職にあることからすれば当然のことでもあり,これに管理職手当を加えた場合と,管理職手当を加えずに休日勤務手当や時間外勤務手当を含む本件各手当を加えた場合との比較では,時間外勤務等の多少にもよるものの,後者の方が多額になる場合もあり得ることが想定されるのであって,上記判断を妨げるものではない。」
(5) 被控訴人らは,被控訴人らが労基法上の管理監督者に該当するものではないとしながらも,控訴人の給与条例上の管理監督職員には被控訴人らのように労基法上の管理監督者でない者も含まれるとした上,給与条例10条3項の被控訴人らへの適用は労基法に違反する旨主張している。
しかし,給与条例の制定や運用に当たって,被控訴人ら主張のような解釈が示されたり,議論されたような事実は本件全証拠からは窺われず,給与条例が労基法に違反する内容を定めていると解することも相当でない。被控訴人らの主張も,被控訴人らに管理職手当が支給されている事実を前提に,その主張と齟齬なく整合させるための解釈としてなされているものと考えられる。
そして,控訴人の給与条例10条における管理監督職員の意義については労基法上の管理監督者と同義に解すべきこと,被控訴人らがその勤務態様や職務内容・職責の重さ等において管理監督者には該当しないと判断されることは前述したとおりであり,したがって,被控訴人らは給与条例上の管理監督職員ということはできず,主幹・副主幹として管理職手当の支給を受け,一般の消防吏員よりも責任の重い職務を分掌しているからといって,それを理由に労基法上の管理監督者とは異なる意義を有する給与条例上の管理監督職員の存在を認めることはできない。
(6) 以上によれば,被控訴人らは労基法上の管理監督者に該当せず,給与条例上の管理監督職員にも該当しないものである。そうすると,被控訴人らは給与条例10条の「管理又は監督の地位にある職員」として,同条3項の適用を受けるものではない。
したがって,給与条例上の管理監督職員であることを理由に本件各手当の支給を受ける権利はないとする控訴人の主張は理由がない。

4 労基法上の管理監督者の抗弁について
被控訴人らが労基法上の管理監督者に該当しないことは上記のとおりであるから,控訴人のこの点の抗弁は前提を欠くもので理由がない。

5 弁済の抗弁について
(1) 控訴人は被控訴人らが支給, を受けている管理職手当には本件で請求されている各手当に相当する分が含まれているとして,被控訴人らの請求はすべて弁済済みであると主張する。
ところで,控訴人の給与条例10条にいう管理監督職員は労基法上の管理監督者と同義に解すべきことは前述したとおりであり,したがって,給与条例10条1項が管理職手当を支給することのできる対象としているのは,少なくとも上記の意義における管理監督者に該当する職員であるということができる。
しかし,主幹又は副主幹の職にあるとしても,被控訴人らが上記の意義における管理監督者に該当しないことも前述したとおりであり,したがって,被控訴人らは給与条例上は管理職手当の支給を受ける対象ではないにもかかわらず管理職手当の支給を受けていたこととなる。
このように被控訴人らに対して管理職手当が支給されてきた根拠は,控訴人の給与規則において主幹・副主幹にも管理職手当を支給する旨定められていたことによるものと認められる。そして,この給与規則の定めは,形式的には給与条例10条1項が管理職手当の受給者を規則による市長の指定に委任していることに基づくものと解される。
しかしながら,同項は「管理又は監督の地位にある職員の職のうち市長が規則で指定するもの」と規定しているのであって,「管理又は監督の地位にある職員の職」にあること,すなわち上述したところと併せれば,上記の意義での管理監督者ということのできる職であることが規則による指定の前提とされていることが明らかであり,これに該当しないものについて規則で管理職手当の支給対象に含めて管理職手当を支給することまでをも委ねたものとは到底解されない。したがって,被控訴人らのように管理監督者と認められない者に対して管理職手当を支給するとの規則の定めは,その限りにおいて条例による委任の範囲を逸脱したものというべきであり,この定め及びこれに基づく被控訴人らに対する管理職手当の支給は給与条例に違反したものといわざるを得ない。
(2) とすると被控訴人らに支払, われた管理職手当は本来支給されるべきではなかったものであり,法律上の原因を欠いた不当な利得というべきであって,これを法律上有効な弁済と認めることはできないものである。
したがって,その支給の趣旨に本件各手当に相当する分の支払の代償的な意味合いが含まれているか否かにかかわらず,管理職手当の支給をもって被控訴人らが請求する本件各手当に対する有効な弁済ということはできない。
このことは,深夜勤務手当に関して,地方公務員の管理職手当には,労基法37条に規定する深夜割増賃金に相当する額を含むように定めることが適当であるとの行政実例が存在することによって変わるものではない。
控訴人は,給与条例10条1項及び3項の規定からすれば,管理職手当の支給には本件各手当の不支給の代償措置としての一面があることは明らかであり,その趣旨から被控訴人らに支給された管理職手当を本件各手当に充当することは許され,給与条例主義にも実質的に反しない旨主張する。
しかし,上記のとおり,被控訴人らに対して支払われた管理職手当が本来支給されるべきものではなかったとすれば,これを名目の異なる他の手当の支給に振り替えて,管理職手当の支給を結果的に適法ならしめるような流用を認めることは,地方自治法及び地方公務員法が,地方公共団体は,いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずにはその職員に支給することができないとし,給与その他の給付については,条例でその額及び支給方法を定めなければならないとしていること(地方自治法204条3項,204条の2,地方公務員法24条6項,25条1項)(給与条例主義)に反するものというべきである。
仮に,その振り替える本件各手当が給与条例で定められているものであったとしても,それは,本件各手当の支給に代えて管理職手当の支給対象でない職員に管理職手当を支給することを結果として容認するのに等しく,上記のとおり,法が,それぞれの手当の内容だけでなく,その額や支給方法についてまで条例で定めることを求めている趣旨からすれば,そのような流用は各手当についての条例の定めを無意味にするものであり,許されないものと解される。控訴人は,本件各手当への充当が認められれば実質的に給与条例主義に反しないとも主張するが,充当が許されるか否かが給与条例主義の問題というべきである。
また,他方では,給与条例主義には,地方公共団体の職員に対して,支給を受けることができる給与や手当等の給付の内容等を明らかにして,その受給を保障する趣旨も含まれると解されるところ,支給を受けていない本件各手当について管理職手当の支給で代えることを認めるのは,各手当の支給関係を不明確にし,保障の趣旨に反することからも流用を認めるのは相当でない。実際にも,本件においては,被控訴人らが,本件各手当として受けるべき金額等との対応をも考慮するなどした上で,本件各手当の支給に代わるものとして管理職手当を受給したといえるような事情は認められない。
以上のことは,被控訴人らが支給を受けた管理職手当の額が,その受けるべき本件各手当の額を上回るものであったとしても,異なるものではない。
むしろ,前述したように,本件では,休日勤務手当や時間外勤務手当を含む本件各手当が管理職手当よりも多額になる場合もあり得ることが想定されるのである。
(3) 以上のとおり本件で被控訴, 人らに支給された管理職手当が不当利得になるとすれば,被控訴人らは控訴人に対して,その返還義務を負うものと解されるが,これと被控訴人らが本件で請求している各手当との相殺については,労基法24条の趣旨に照らして許されないものと解される。
(4) 被控訴人らは,その受給した管理職手当は被控訴人らが担っている管理職的業務に対する対価であり,正当に受給できるもので,法律上の原因を欠くものではない旨主張する。
しかし,控訴人の給与条例10条1項が少なくとも労基法上の管理監督者に該当する者に対して管理職手当を支給することを定めているものと解されること,そして被控訴人らがこれに該当しないことはすでに述べたとおりであり,そうであれば被控訴人らが給与条例10条1項に基づいて管理職手当の支給を受けることはできないといわざるを得ないのであって,被控訴人らの主張は認められない。
(5) 以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,控訴人の弁済の抗弁は理由がない。

6 消滅時効の抗弁について
(1) 本件広域組合及び控訴人の職員としての被控訴人らの本件各手当の請求権は,公法上の金銭債権と解され,普通地方公共団体に対する公法上の金銭債権の消滅時効期間についての地方自治法236条1項の規定は,同法292条によって一部事務組合である本件広域組合に対する公法上の金銭債権について準用される。また,地方公共団体の職員には,法律が特に適用を除外している場合を除き,原則として労基法の規定が適用されるものと解されるところ(地方公務員法58条2項,3項参照),地方公務員法は賃金等の請求権の消滅時効期間に関する労基法115条の適用を除外していないので,同条は地方自治法236条1項の「時効に関し他の法律に定めがあるもの」として地方公共団体の職員にも適用されることとなる。そして,被控訴人らが請求する本件各手当は,職員の勤務の対価としての性質を有することから,労基法の賃金に当たるものと解され,したがって,その請求権は,公法上の金銭債権ではあるが,労基法115条の規定により2年間これを行使しない場合には時効により消滅するものと解される(最高裁昭和38年(オ)第1080号同41年12月8日第一小法廷判決・民集20巻10号2059頁)。なお,地方自治法236条2項により,消滅時効の効果は時効の援用を要することなく生じるものである。
(2) 以上によれば,当審での請求の追加前の,平成17年度以前の勤務に係る本件各手当の請求のうち,深夜勤務手当の請求については,その訴えが提起されたのが平成18年5月19日であるから,平成16年5月18日以前に支給日が到来する平成16年3月31日までの勤務に係る分が,時間外手当Aの請求については,原審においてその請求が訴えの変更により追加されたのが平成18年11月1日であるから,平成16年10月31日以前に支給日が到来する平成16年9月30日までの勤務に係る分が,そして,時間外手当Bの請求については,原審においてその請求が訴えの変更により追加されたのが平成19年9月5日であるから,平成17年9月4日以前に支給日が到来する平成17年7月31日までの勤務に係る分が,それぞれ時効により消滅することになる。
また,当審において請求が追加された,平成18年度及び平成19年度の勤務に係る本件各手当の請求のうち,深夜勤務手当の請求については,当審においてその請求が追加されたのが平成21年2月18日であるから,平成19年2月17日以前に支給日が到来する平成18年12月31日までの勤務に係る分が,時間外勤務手当及び休日勤務手当の請求については,当審でその請求が追加されたのが平成20年9月2日であるから,平成18年9月1日以前に支給日が到来する平成18年7月31日までの勤務に係る分が,それぞれ時効により消滅することになる。
(3) 当裁判所も控訴人による消, 滅時効の主張は信義則に反するものではないと判断するが,その理由は,以下に付加訂正するほか,原判決の事実及び理由の第3の3(原判決47頁12行目から51頁7行目まで(49頁12行目から50頁16行目までを除く。))の記載と同じであるから,これを引用する。
ア原判決50頁17行目及び18行目の「時間外手当」を,いずれも「深夜勤務手当,時間外手当A,時間外手当B,平成18年度及び平成19年度の時間外勤務手当並びに休日勤務手当」に改める。
イ同50頁22行目の「適合するものである」を「違反するものではない」に改める。
ウ同50頁23,24行目の「主幹・副主幹に昇進させたこと」を「主幹・副主幹に昇進させて,管理監督者として処遇したこと」に改める。
エ同51頁1行目の「相当額の」の前に「適切であったとはいえないものの」を加える。

7 権利濫用の抗弁について
控訴人は,被控訴人らが管理職手当の支給を受けることができないことを知りながらこれを不当に受給し続け,その返還をすることなく本件各手当の支払を求めていることは,住民全体の奉仕者であるべき公務員として権利の濫用であると主張している。
しかし,これまで述べてきたところからすれば,主幹・副主幹であっても,本来,管理監督者とはいえない被控訴人らに対し,給与規則で管理職手当の支給対象者としたことを理由に,それに基づいて管理職手当を支給する一方,本件各手当を支給しなかったのは控訴人であり,また,本件各手当が支給されないのは違法であるとして,その是正を求める被控訴人らの要求に応じることなく,管理職手当の支給を続けてきたのも控訴人であったということができる。
そして,被控訴人らが請求する本件各手当は,その勤務に対する対価として当然に支払わなければならないものと解されるのであって,管理職手当との相殺が許されないのは,労基法24条の趣旨によるものである。
以上からすれば,被控訴人らが本件各手当が支給されない状態のもとで,管理職手当の支給を受けてきたことを一方的に非難することはできないというべきである。
よって,控訴人の権利濫用の主張を認めることはできない。

8 平成18年度及び平成19年度の休日勤務手当の請求に関する控訴人の主張
について
控訴人は,上記の休日勤務手当は給与条例によって創設された特別の手当であり,その支給対象者の範囲は給与条例により定まるものであるところ,給与条例10条3項により被控訴人ら管理監督者には支給しないものとされている旨主張する。しかし,被控訴人らが給与条例上の管理監督者に該当しないことはすでに述べたとおりであり,被控訴人らは給与条例10条3項の適用を受けるものではない。したがって,控訴人の主張は理由がない。

9 結論
(1) 以上によれば被控訴人ら, の請求のうち,以下に記載する部分については理由があるものと認められるが,被控訴人らが当審で拡張及び追加した請求のうちその余の部分はいずれも理由がない。
ア平成17年度以前の深夜勤務手当につき,本判決別紙4「夜間勤務手当」表の「16年17年合計」欄記載の各金額の支払を求める請求
イ平成17年度以前の時間外手当Aにつき,本判決別紙6「平成16,17年度時間外勤務手当請求額」表の「時間外勤務手当A」欄記載の各金額の支払を求める請求
ウ平成17年度以前の時間外手当Bにつき,本判決別紙6「平成16,17年度時間外勤務手当請求額」表の「時間外勤務手当B」欄記載の各金額の支払を求める請求
エ平成18年度及び平成19年度の深夜勤務手当の請求のうち,本判決別紙5の各被控訴人に係る「時間外勤務手当及び深夜勤務手当」表の「夜間勤務手当」欄の平成19年1月から平成20年3月までに記載された金額の合計額の支払を求める部分
その合計額は,被控訴人甲については22万9719円,被控訴人乙については23万9088円,被控訴人丙については23万6291円,被控訴人丁については23万4450円,被控訴人戊については23万5677円となる。
オ平成18年度及び平成19年度の時間外勤務手当の請求のうち,別紙5の各被控訴人に係る「時間外勤務手当及び深夜勤務手当」表の「時間外勤務手当」欄の平成18年8月から平成20年3月までに記載された金額の合計額の支払を求める部分
その合計額は,被控訴人甲については10万3741円,被控訴人乙については4万1683円,被控訴人丙については29万7215円,被控訴人丁については9万9849円,被控訴人戊については12万8130円となる。
カ平成18年度及び平成19年度の休日勤務手当の請求のうち,各被控訴人につき,別紙2の「平成18年度休日勤務手当」表の4月30日から7月17日までの欄に記載された時間の合計に各被控訴人についての「休日勤務手当の1時間当たりの金額」欄の率100分の35の額を乗じた金額(被控訴人甲については4万2966円,被控訴人乙については3万0360円,被控訴人丙については3万7518円,被控訴人丁については2万8623円,被控訴人戊については2万4575円)を別紙1「請求額表」の各被控訴人の平成18年度の「休日勤務手当」欄記載の金額から差し引いた金額と,平成19年度の「休日勤務手当」欄記載の金額の合計額の支払を求める部分
その合計額は,被控訴人甲については27万1590円,被控訴人乙については24万8605円,被控訴人丙については42万8734円,被控訴人丁については29万2428円,被控訴人戊については29万7745円となる。
(2) そして上記の理由がある, と認められる各請求金額について,それぞれ次に記載する日から支払済みまで,民法所定年5分の割合による遅延損害金の請求が認められる(いずれも訴状もしくは各請求についての訴え変更申立書等の送達の日の翌日である。)。
アの請求について平成18年5月30日
( ただし,(ア)被控訴人甲の請求のうち3072円,被控訴人乙の請求のうち355円,被控訴人丁の請求のうち4317円については,いずれも原審での平成18年11月1日付けの請求拡張分の中の深夜勤務手当相当分であるので,その訴え変更申立書送達の日の翌日である平成18年11月3日,(イ)被控訴人丁の請求のうち743円については,当審における平成21年2月18日付け附帯控訴及び訴変更申立書の一部訂正申立書送達の日の翌日である平成21年2月20日)
イの請求について平成18年11月3日
ウの請求について平成19年9月8日
エの請求について平成21年2月20日
オ及びカの請求について平成20年9月4日
(3) よって,控訴人の本件控訴を棄却し,被控訴人らの附帯控訴及び当審における請求の拡張及び追加に基づいて,上記と異なる原判決を変更して,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部

裁判長裁判官西島幸夫
裁判官野々垣隆樹
裁判官浅田秀俊

 

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