残業代請求|福岡の司法書士 にじいろ法務事務所

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東京地裁平成19年(ワ)第15779号 平成21年2月9日判決

2016-09-17

主文
1 被告有限会社プレゼンスは,原告Aに対して,501万2015円及びこれに対する平成19年2月4日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
2 同被告は,同原告に対して,483万3863円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 同被告は,原告Bに対して,156万0445円及びこれに対する平成19年2月4日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
4 同被告は,同原告に対して,145万6016円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らの被告Cに対する請求及び被告有限会社プレゼンスに対するその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,被告Cに生じた費用と,原告らに生じた費用の5分の1を原告らの,その余を被告有限会社プレゼンスの負担とする。
7 この判決の第1項及び第3項は,仮に執行することができる。

 

事実及び理由
第1 請求
1 原告Aに対して,
(1) 被告らは,連帯して,1107万6752円及びこれに対する平成19年2月4日(最終勤務日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告有限会社プレゼンスは,上記(1)の金員のうち646万9775円に対する前同日から支払済みまで年9.6パーセントの割合による金員を支払え。
(3) 被告有限会社プレゼンスは,629万1623円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告Bに対して,
(1) 被告らは,連帯して,448万4250円及びこれに対する平成19年2月4日(前同)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告有限会社プレゼンスは,上記(1)の金員のうち197万6591円に対する前同日から支払済みまで年9.6パーセントの割合による金員を支払え。
(3) 被告有限会社プレゼンスは,187万2162円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 第1項(1)及び(2)並びに第2項(1)及び(2)につき仮執行宣言

第2 事案の概要
原告A及び原告Bは,被告有限会社プレゼンス(以下「被告会社」という。)に雇用されていた。本件は,原告らが,①時間外(法定。以下,「時間外」とはこの意味で用いる。)手当,②①に関する付加金,③平成19年1月20日から同年2月3日までの未払賃金,④被告らの不法行為により精神的損害を被ったとしてその賠償として慰謝料及び弁護士費用,並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実及び弁論の全趣旨から明らかな事実(文中では「争いのない事実」と表記する。)
(1) 当事者
被告会社は,飲食店の経営等を業とする会社である。被告Cは,原告らの在籍中から,被告会社の代表者を務めており,被告会社経営の店舗にも顔を出すなどして給与の支払に関与してきた。
原告Aは,平成17年9月に被告会社に採用され,料理長の肩書きで,就業場所のイタリア料理店「α」(以下「本件店舗」という。)で稼働してきた。
原告Bは,平成18年5月に被告会社に採用され,同年9月から正社員となり,「接客サービス及び調理」の職で本件店舗で勤務してきた。
原告らは平成19年1月中に(日については原告・被告間に争いがある。)退職を申し出,同年2月3日付けで被告会社を退職した。
(2) 被告会社における勤務時間(以下,時刻はすべて24時間表示である。)は,①10時から18時,②17時(17時か16時かで,原告・被告間に争いがある。)から24時,③①と②を混合した形,の3種類とされており,休憩時間は各1時間であった。本件店舗の営業時間は,11時30分から14時30分と,18時から23時である。
(3) 被告会社における賃金の支払は,毎月20日締め,翌月25日払いである。原告Aの給与月額は36万円である。同Bのそれは,平成18年6月は18万円,同年7月は19万円,同年8月は20万円,同年9月以降は21万円である。
(4) 被告会社ではタイムカードによる勤務時間管理がされていた。被告Cは,平成19年3月ころ,愛宕警察署に,建造物侵入,窃盗等で,原告らにより,原告らのタイムカードが盗まれた旨の被害申告を行い,これにより原告らは同年4月4日逮捕され,身柄拘束期限の同月7日に釈放された。
2 争点
(1) 時間外手当の請求につき
ア原告らが時間外労働をした事実の有無(争点1)
イ原告Aは労基法41条2号にいう管理監督者か(争点2)
(2) 原告らの未払賃金請求の成否(争点3)
(3) 被告らの原告らに対する不法行為の成否(争点4)

3 当事者の主張
(1) 争点1(原告らが時間外労働をした事実の有無)について
(原告らの主張)
ア本件店舗の営業時間は前記争いのない事実(2)のとおりであるが,原告らは,仕込みや掃除,前日の洗い物等のため,朝8時から8時30分には出勤する必要があった。掃除等の後,パスタの生地を打ったり,パン生地を練ったりサラダやデザートの用意,食材業者への発注等をし,11時ころからパンを焼き始める。それから昼食時間帯となり,来客が一段落する13時30分ころには,洗い物や夜の仕込み等も並行して行い,14時30分にいったん閉店してからも16時ころまで断続的に仕事をしていた。
いったん食事を摂り,17時からは夜の営業の準備をしていた。閉店は23時であるが,ラストオーダーが23時なので,お客がはけるのに24時までかかることもあった。洗い物や翌日の仕込みが終了し,退出できるのは23時30分から24時ころが多かった(土曜日は,閉店時間が早いので,22時前に退出できるときもあった。)。結局,雇用契約書には前記のとおりに労働時間が記載されていたが,同①の早番と②の遅番を足しても間に合わない長時間労働を強いられた。
イ雇用期間中の労働時間
原告Aの労働時間については,平成18年2,3,5,6,8ないし12月,平成19年1月のタイムカードから明らかであり,極めて長時間の時間外労働をしているから,これに基づき,下記ウの計算により,時間外手当を請求する。それ以外の月についてはタイムカードが存在しないが,平成17年10月ないし平成18年1月,同年4月,7月,平成19年2月については,タイムカードが存在する月の平均時間程度は労働している
ことは明らかであるから,これにより時間外手当を請求する。その労働時間及び時間外手当の計算は別紙1のとおりである。
原告Bは,勤務開始時から同Aの手伝いをしていたので,両名はほぼ同じ時間に出勤し,調理場内の火の元の点検をした後,一緒に退勤していた。
したがって,同Bはタイムカードが平成19年1月分しか存在しないが,労働時間は原告Aと同じとなり,同原告の労働時間によった。時間外手当
の計算は,別紙2のとおりである。
ウ時間外手当の計算
(ア) 1か月の所定労働時間
1週間の法定労働時間を,小規模企業の特例により44時間と計算した。
そうすると,1か月の所定労働時間は,休日は特に定められていないので,190時間となる。
44時間×52週=2288時間
2288時間÷12か月=190時間
(イ) 残業単価,原告Aの場合
36万円÷190時間=1895円
通常の残業は,1895円×1.25=2369円
法定休日は,1895円×1.35=2558円
深夜残業は,これらに加え,1895円×0.25=474円
(ウ) 残業単価,原告Bの場合
a 通常勤務
(平成18年9月以降) 21万円÷190時間=1105円
(同年6月) 18万円÷190時間=947円
(同年7月) 19万円÷190時間=1000円
(同年8月) 20万円÷190時間=1053円
b 通常の残業
(平成18年9月以降) 1105円×1.25=1381円
(同年6月) 947円×1.25=1184円
(同年7月) 1000円×1.25=1250円
(同年8月) 1053円×1.25=1316円
c 法定休日
(平成18年9月以降) 1105円×1.35=1492円
(同年6月) 947円×1.35=1278円
(同年7月) 1000円×1.35=1350円
(同年8月) 1053円×1.35=1422円
d 深夜残業,上記bcに加え,
(平成18年9月以降) 1105円×0.25=276円
(同年6月) 947円×0.25=237円
(同年7月) 1000円×0.25=250円
(同年8月) 1053円×0.25=263円
(被告らの主張)-就労の実情
原告ら主張の時間外労働の事実は否認する。タイムカードは労働時間の実態を表すものとはならない。本件店舗の営業時間からいって,原告らが朝8時から出勤する必要はなかった。原告Aが出していた料理は,仕込みにそれほど時間を要するものでなかった。14時30分に閉店してから16時ころまで断続的に仕事をしていた事実もない。厨房スタッフは,昼食も自分たちの都合でさっさと摂って,昼寝をしていた。原告Bは,遅いときでも15時,早いときには14時には休憩に入っていた。本件店舗の閉店時間は23時でなく24時で,ラストオーダーは23時10分であったが,実際には客の様子を見て23時前にラストオーダーを取り終えていた。午後9時30分過ぎにはオーダーも落ち着き,客も専ら酒の時間になるので,料理長がしっかりシフトを組めば,午後10時過ぎには順次帰宅でき,厨房スタッフが全員残る必要はなかった。その間は,労働していたとはいえない。勤務時間中も,原告らが持ち場を離れ,控室で休憩を取る場面も頻繁に見かけられた。原告らは,ラストオーダーと共に上がり,後片付けはサービス担当の者に押しつけ,さっさと帰宅していた。
原告Bについては,原告Aの手伝いをしていたので,出退勤の時間も同原告と同じであると主張するが,原告Bに行動を共にするように命じたのは原告Aであって被告らではない。被告らは原告Bにそのような残業命令はしていない。同原告が勝手に長居していたにすぎない。
(2) 争点2(原告Aは労基法41条2号にいう管理監督者か)について
(被告らの主張)
原告Aは,料理長であり,一介の労働者ではなかった。
ア原告Aは,管理監督者として振る舞っており,人事に関する権限として,原告Bの給与を上げるべきだと主張して,前記のような短期間での昇給を実現させている。
イ出退勤の自由について
被告らは,原告Aに,何時に出社せよと指示命令したことはないし,退勤するのを止めたこともない。同原告は,勝手に早く来て,休憩も取り放題だったのであり,出勤・退勤が管理されていたことはない。
ウ職責について
原告Aは,食材の仕入れをすべて任されており,被告会社の金を自由に使える立場にあった。平成18年のクリスマスには,1つ6万4000円もする大きな白トリフを独断で仕入れたことがあったが,これにとどまらない。普段もメニューを被告Cの了承を得ず勝手に決定し,同被告の指示に背くことさえあった。本件店舗がグルメ雑誌に同原告の写真入りで紹介された時も,取材時は同被告に無断であった。
エ待遇
同原告は,その基本給36万円に対し,1年間の時間外手当約630万円を請求しているが,合計1000万円を超えており,本件店舗の売上げが年間約1億円であるから,その10%に相当する。このような待遇は考えられない。月商800万円の約4.5%相当の基本給36万円は十分な待遇である。
(同原告の主張)
原告Aは,タイムカードで勤務時間を管理され,勝手に休むことは許されず,出退勤の自由は認められていなかった。同原告が被告Cに無断で人を雇うことは許されず,役職手当などはもらっておらず,基本給のみであって,時間外手当の支給を受けないことに見合うだけの処遇も受けていないから,「経営者と一体的立場にある者」であったとはいえない。
(3) 争点4(被告らの原告らに対する不法行為の成否)について
(原告らの主張)
原告Aは,被告らが時間外手当の支払拒否をしているので,被告らにタイムカードを処分されないように,勤務時間内に自分のタイムカードを抜き出しておき,被告Cに時間外手当支払交渉をし,退職後,同請求書と共にタイムカードを返却した。原告Bも,同様に平成19年1月分だけは確保しておいた(他の分は処分されてしまった。)。しかるに同被告は,時間外手当の支払を免れようと,愛宕警察署に,建造物侵入,窃盗等で,原告らが退職後に本件店舗に侵入して原告ら以外の従業員のタイムカードをも盗んだ旨の虚偽の被害届を提出し,これにより証拠資料が押収された上,原告らは逮捕されてしまった。上記は,時間外手当の支払を計画的に免れようと被告らが行ったもので,被告らの不法行為(民法709,719条)が成立する。これによる原告らの精神的損害は,原告Aにつき給与の10か月分の360万円,同Bにつき同じく210万円である。
(被告らの主張)
原告ら主張の事実は否認する。被告Cは,タイムカードを破棄したことはない。原告らのタイムカードの窃取について警察に被害届をしたことは事実であるが,他人のタイムカードを窃取したとの虚偽の被害届はしていないし,時間外手当の支払を免れるためにしたのではない。被告Cは,事実をありのままに述べただけであり,全員のタイムカードがなくなった,原告Aのタイムカードだけ送られてきたので,原告Aがしたのではないか,と述べた。逮捕したのは警察の判断である。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告らが時間外労働をした事実の有無)について
(1) 証拠(甲4,5,原告A本人。書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨によれば,同原告が,タイムカードが証拠として提出されている平成18年1月後半から3月前半,同年4月後半から6月前半,同年7月後半から平成19年1月前半において,ほぼ別紙1のとおりの時刻に(少々の誤りやタイムカードの不鮮明なところはあるが。),本件店舗に出勤しており,出勤時及び退勤時にタイムカードを打刻したことが認められる。
(2) 被告会社における勤務時間及び本件店舗の営業時間は前記争いのない事実(2)のとおりである。上記別紙1によれば,同原告は,料理長という立場からか,被告会社における早番・遅番のシフトを問わず,朝から閉店に近い23時台まで勤務していることがほとんどであることが認められる(それゆえ,遅番のシフトの開始時間につき原告・被告間に争いがあるが,ほとんど問題とならない。)。また,朝の出勤時刻は,開店の11時30分に対して8時台がかなり多く,相当早い時刻であることが認められる。
証拠(甲20,21,証人D,原告A本人,被告C本人兼被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,同原告は,本件店舗の料理長として,営業時間中料理等を出し,また,その準備をするために,おおむね上記のとおりの時間,勤務することを要したものであることが認められる。そして,同原告の出勤時刻の早い原因は,パン生地を練ったり掃除をしたりするほか,手打ちパスタの準備をするためであることがその1つとなっていると考えられる。ところで,上記証拠等によれば,被告らは,同原告に対し,何時に出勤せよなどといった具体的な指示はしていないこと,特段ノルマ等は課していないこと,本件店舗で出す料理は,被告Cの了承を得たものではあったが,上記の料理を問わず,何を出すかあるいは何食出すかといった点については,同原告の裁量に基本的に任されていたことが認められる。したがって,このような状況で,同原告が料理人としての個人的な趣味や信条に従って選択した料理の準備に長い時間を費やすことがすべて使用者の経済的負担となる時間外労働となるとは解されない。加えて,この早朝の時間帯の同原告の勤務状況については,使用者において確認していないのであるから,これらを考慮すると,時間外手当を発生させる労働としては,9時からと認めるのを相当とする。その結果を記したものが別紙3である。
(3) 同原告が時間外手当の請求をしている平成17年10月から平成19年2月のうち,タイムカードの存在しない,上記(1)以外の期間については,この時の勤務状況に他の期間と特段の差が存したことをうかがわせる証拠は存しないから,同原告の請求のとおり,上記期間の平均値をもって時間外労働が行われたものと推認すべきである。その額は,別紙3に基づき計算すると,483万3863円となる。
なお,少なくとも休日労働については,労働者は自己の意思で休日労働をするか否かを決定する裁量が本来なく,使用者の休日労働の個別の命令を要すると解される。しかしながら,同原告に与えられていた上記の裁量からすれば,同原告が実際に休日に稼働した部分については,同原告に必要性を判断する裁量があったものとして,命令があったものと同等に扱うべきである。
ただし,平成18年4月27日は,日曜日でないところ,原告は,連続して労働した7日目を法定休日として休日の労働分を請求しているが,これは同原告が自己の判断でその前の日曜日の同月23日を休日労働したことによるものであるから,休日労働とは認めないこととする。また,1日8時間を超過したことによる時間外手当と,1週44時間を超過したことによるそれとは,重畳的に発生するものではなく,同原告の勤務時間が1日8時間を超過していることは明らかであるから,1週44時間を超過したことによる時間外手当は発生しないものである。
同原告が管理監督者に当たり時間外手当を支払う必要がないかは,被告会社の抗弁であるから,次項で検討する。
(4) 原告Bについては,証拠(甲7の1及び2,20,21,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年12月後半から平成19年1月前半のみのタイムカードが存在しており,原告A同様,この期間についてはほぼ別紙2のとおりの時刻に,本件店舗に出勤しており,出勤時及び退勤時にタイムカードを打刻していたことが認められる。上記証拠等によれば,原告Bは,同Aと同じような時刻に出退勤し,この間勤務していたことが認められるから,上記(3)同様に,タイムカードの存在する月についてはこれに従い,存在しない期間については,同様に時間外労働が行われたものと推認すべきであり,このように時間外労働が行われたものと認められ,時間外手当の計算は別紙4のとおりとなる。なお,休日勤務及び上記(3)で言及した平成18年4月27日の分も,原告Bについては,上司である原告Aの命令によるものと考えられるから,認めることとする。

2 争点2(原告Aは労基法41条2号にいう管理監督者か)について
(1) 管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理につき,経営者と一体的な立場にあるものをいい,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきであると解される(昭和22年9月13日発基第17号等)。具体的には,①職務内容が,少なくともある部門全体の統括的な立場にあること,②部下に対する労務管理上の決定権等につき,一定の裁量権を有しており,部下に対する人事考課,機密事項に接していること,③管理職手当等の特別手当が支給され,待遇において,時間外手当が支給されないことを十分に補っていること,④自己の出退勤について,自ら決定し得る権限があること,以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。
(2) そこで原告Aにつき,これらの要件を満たすかを検討する。
同原告は料理長という肩書きが与えられ,厨房スタッフ3名程度の最上位者にいたことは当事者間に争いがない。しかし,本件全証拠によっても,同原告が部下の採用権限を有していたり,人事考課をしていたなどの事実は認められない。また,同原告に裁量のあった上記1(2)の点についても,出す料理はすべて被告Cの了承を得たものであり,広範な裁量とはいえない。
本件店舗の営業時間が決まっていることから,出退勤を自由に決められるわけではなく,上記1認定のように,現に毎日出勤し,朝早くから夜遅くまで勤務していた。唯一,ラストオーダーである23時ないし23時10分を超え,料理の注文がなくなった以降,閉店である24時前に退勤していたにすぎない。待遇についても,同原告(昭和▲年▲月生,採用時36歳)の月額給与は前記争いのない事実(3)のとおり36万円であり,料理人の世界では年齢に万円を乗じた額であれば厚遇だという意見(証人D)もあるものの,
原告Aには賞与も歩合給も役職手当もないのであるから,この程度では経営者と一体的な立場にあるとは到底いえない。被告らの同主張は採用できない。
したがって,同原告に対しても,被告会社は時間外手当の支払義務を有するというべきである。

3 争点3(原告らの未払賃金請求の成否)について
被告会社は,同請求を争っているが,特段理由を示していない。証拠(甲12,15,16,20,21)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社は平成19年2月23日ころ,本訴において原告らの請求する金額と同額の計算書を原告らに送付し,異議申立てをしない旨の署名を求めたこと,これに対し,原告Aはその旨記載した書面を送付し,同Bは送付しなかったこと,その金額は同原告について,月額基本給21万円を毎月の勤務予定日25日で除し,未払期間である平成19年1月20日から同年2月3日までの12日を乗じた金額に同交通費3629円を加算した10万4429円であったこと,被告会社は結局,上記異議申立てをしない旨記載した書面を送付した原告Aに対してもこれを支払わなかったこと,の各事実が認められる。
これによれば,原告Bに関する未払賃金は,被告会社も自認する上記金額と認められ,原告Aについては,前記認定の同人の月額基本給36万円に同交通費1万1150円(弁論の全趣旨により認める。)を加え,その和をもって同様に計算すると,17万8152円と認められるので,同額を認容する。

4 争点3(被告らの原告らに対する不法行為の成否)について
被告Cが,原告らについて,タイムカードが盗まれたとの件で警察に被害届をし,これにより原告らが逮捕された事実は当事者間に争いがない。しかしながら,証拠(被告C本人兼被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Cは,原告Aが自己のタイムカードを盗んだことについて窃盗にならないのか,と愛宕警察署に相談し,被害届けを勧められてそのようにしたというのであり,原告らが退職後本件店舗に侵入し,全員のタイムカードを窃取したという虚偽の被害届けをしたとの事実を認めるべき証拠は存しない。また,Aが自己のタイムカードを持ち出した行為につき,窃盗として逮捕することが相当か疑問がなくはないが,逮捕自体は警察の判断であり,被告らの行為ではないから,虚偽の被害届けを提出して警察を陥れたという事情が認められない以上,被告らの不法行為は成立しないというべきである。原告らの同主張は認められない。
不法行為が成立しないから,弁護士費用の請求も認められない。

5 付加金の請求について
本件において,被告会社は,原告らに対し時間外手当を支払わず,本件訴訟提起後も,変わることなく,時間外手当を支払う姿勢が見られないから,時間外手当と同額の付加金の支払を命ずるのが相当である。

6 結論
以上判示したように,被告会社に対する原告らの請求は,時間外手当及び未払賃金並びにこれらに対する遅延損害金の請求について主文第1及び第3項の限度で,付加金の請求について同第2及び第4項の限度で,いずれも理由があるから認容し,不法行為は成立しないから,被告Cに対する請求及び被告会社に対する同請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
裁判官村越啓悦

 

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