残業代請求|福岡の司法書士 にじいろ法務事務所

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広島地裁平成18年(ワ)867号平成19年3月30日判決

2016-09-07

主文
1 被告は原告に対し,金403万1749円及び内金166万2229円に対する平成17年5月1日から,内金236万9520円に対する平成18年5月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告に対し,金187万3081円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを5分し,その3を原告の,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項同旨
2 被告は原告に対し,金374万6162円を支払え。
3 被告は原告に対し,金233万9243円及びこれに対する平成18年4月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 被告は原告に対し,金475万2314円及び内金235万2314円に対する平成16年9月1日から,内金200万円に対する平成18年4月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 前提事実(争いのない事実,弁論の全趣旨及び文中記載の証拠による。)
(1) 被告は,精密測定機器,金属工作機械,機械工具等の販売及び輸出入をする会社である。
(2) 原告は,大学を卒業して昭和47年3月被告に入社し,昭和56年ころからは,被告の広島営業所に勤務し,同営業所長の指揮監督の下に,得意先,メーカーと電話,ファックスでの対応,注文,見積りの処理,在庫管理,営業員との打合わせ等の営業業務に従事した。平成16年ころ,同営業所の社員は,所長以下約10名であった。
原告が勤務する被告広島営業所の所長は,平成17年4月1日以降Aであった。
(3) 原告は,平成18年4月3日,退職事由欄に「一身上の都合により退職致したくお願い申し上げます」と記載した退職願(乙4。以下「本件退職願」という。)を被告に提出し,同月20日付けで被告を退職した。
また,原告の雇用保険被保険者離職証明書にも,離職理由として「一身上の都合による」と記載されている。(乙6)
(4) 被告の諸規定
ア被告の就業規則(乙1)によれば,休日は,毎週土曜日,日曜日,国民の祝日及び年末年始(1月1日から1月4日まで)であり,それ以外の日の勤務時間は,午前8時30分から午後5時まで,このうち午前12時から12時45分までは休憩時間(所定労働時間7時間45分)と定められている。
イまた,被告の退職金規定(乙3)によれば,勤続5年以上の退職の場合には,退職金の支給額は退職前3か月の基本給の平均に対し勤続1年(1年未満は切り捨て)につき1か月分の支給率を乗じた額とする旨定められている。
ただし,依願退職の場合には,上記金額の100分の80を支給する旨定められている。
(5) 平成16年4月から平成17年3月までの原告の所定労働時間数及び割増賃金算定の基礎となる賃金額は以下のとおりであった。
① 1か月の平均所定労働時間数
ア平成16年4月から平成17年3月まで
所定の休日数は,122日,所定労働時間は7.75時間であるので,次のとおりとなる。
(365-122)×7.75÷12=156.93時間
イ平成17年4月から平成18年3月まで
所定の休日数は,120日であるので,次のとおりとなる。
(365-120)×7.75÷12=158.22時間
② 算定の基礎となる賃金
ア平成16年4月から平成17年3月まで
34万7000円(基本給+皆勤手当)
イ平成17年4月から平成18年3月まで
34万9000円
③ 1時間当たりの賃金
上記②のアの期間2211円上記②のイの期間2205円
(6) 被告は,平成18年4月28日,原告の退職(上記(3))を本人都合による退職として退職金を計算し(基準退職金の80パーセント相当額),原告に対し退職金935万6968円を支払った。(乙5)

2 訴訟物
(1) 平成16年7月15日から平成18年4月までの未払時間外勤務手当の支払請求(附帯請求は,いずれも支払期後である平成17年3月分までについては同年5月1日以降の,同年4月分以降の分については平成18年5月1日以降の商事法定利率による遅延損害金)-請求1関係
(2) 上記未払時間外勤務手当のうち労働基準法37条1項に違反する額と同額の同法114条に基づく付加金請求-請求2関係
(3) 原告の退職が本人都合退職でないことを理由とする所定退職金と既払退職金の差額請求(附帯請求は,退職金支給日である平成18年4月28日以後の商事法定利率による遅延損害金)-請求3関係
(4) 被告の不法行為(被告が,違法に時間外勤務手当を支払わず原告に長時間労働をさせたこと,原告に精神的苦痛を与え,退職を余儀なくさせたことをその内容とする)に基づく損害賠償(平成15年7月15日から平成16年7月14日までの時間外勤務手当相当額,慰謝料及び弁護士費用)請求(附帯請求は,損害のうちの時間外勤務手当相当額につき賃金支払期後である平成16年9月1日から,慰謝料につき原告の退職の翌日である平成18年4月21日からの遅延損害金)-請求4関係

3 主たる争点
(1) 原告は,その主張するような時間外勤務をしたか
(原告)
ア原告は,別紙「原告主張の時間外勤務」のとおり,時間外勤務をした。
その時間外勤務手当額(被告による既払分を除く)は,平成16年7月15日から平成17年3月までが166万2229円,平成17年4月1日から同月25日までが16万7745円,平成17年4月26日から平成18年4月までが220万1775円(合計403万1749円)である。
よって,原告は被告に対し,上記未払時間外勤務手当額及びこれに対する各支払期後である平成17年3月までの分については同年5月1日から,同年4月以降の分については平成18年5月1日からの商事法定利率による遅延損害金の支払を求める(請求1)。
イまた,上記未払時間外勤務手当のうち,労働基準法37条1項に違反する時間外勤務手当の額は,以下のとおり,合計額374万6162円である。
よって,原告は被告に対し,同法114条に基づき,上記金額の付加金の支払を求める(請求2)。
① 2211円×168日×3.33時間(3.58時間から0.25時間を引いた時間)×1.25=154万6152円
② 2205円×17日×3.33×1.25=15万6031円
③ 2205円×741.58時間(合計798.83時間から229日×15分=57.25時間を引いた時間)×1.25=204万3979円
(被告)
ア原告主張の時間外勤務のうち,労働基準監督署からの指導のあった毎週月曜日のミーティング,朝礼の5分,昼休憩の15分,営業会議,午後5時以降平均2時間,残業支給時間不足額等(平成16年6月から平成18年4月まで,総残業時間を合計881時間とし,これに実際の残業支給額平均値を2750円/時間を乗じた合計242万4125円)以外の時間外勤務については,否認する。
原告は,午後5時以降は営業会議など特別の場合を除き,ほぼ出勤簿に記載されている時間に退社していた。
被告広島営業所における時間外勤務手当の運用は,上長の命令または社員からの申請に基づき時間外就業を認め,残業手当を支給していた。これは,勤務時間内で業務を終了させることを目的として効率化を図るためで,ただダラダラと会社にいた時間を時間外就業とは認めず,仕事のあるときは残業申請をしてもらい,業務内容を明確にして最短時間で終了してもらうことを促していたものである。原告自身もこのことは十分承知しており,営業所会議その他上長からの指示に基づく残業については,原告自身が残業請求書を提出して許可を受け,残業手当の支給を受けており,残業の必要があれば原告はいつでも残業申請ができたのに,上記以外原告は一度も残業申請書を提出したことはない。
イ仮に被告に時間外勤務手当の不支給があったとしても,被告は就業規則や給与規則において時間外勤務手当を定め,現に上長の命令に基づく残業手当については支給しており,被告には裁判所が付加金を命じなければならないほどの悪質性はない。仮に,付加金の支給を命じるとしても,大幅にその額を減額すべきである。
(2) 原告に支払われるべき退職金額(原告の退職は,本人都合退職であったか)
(原告)
原告が自ら退職願を被告に提出した事実はあるが,従業員としては,会社に労働契約上重大な義務違反があり,これを理由として退職しようとするときであっても,就業規則上は,被告に退職願を提出して退職する以外に方法はないのであるから,このような場合においても,被告の退職金規定を形式的に適用して本人都合退職とするのは信義則に反するというべきである。被告は,後記(3)でも主張するとおり,違法に時間外勤務手当を支払わず,原告に退職を余儀なくさせた。このような非がありながら,退職金を2割減額するのはいかにも不公平である。退職願には通常「一身上の都合により」と書くのであるから,そのような記載のある本件退職願を提出したという一事をもって,本人の自己都合によって退職したと見るべきではない。
本件においては,減額しない退職金が支払われるべきであり,原告が受け取るべき退職金額は1169万6000円である。
原告は被告に対し,上記退職金額と被告が既に支払った退職金額の差額233万9032円及びこれに対する退職金支給日(平成18年4月28日)以後の商事法定利率による遅延損害金の支払を求める(請求3)。
(被告)
原告の主張は否認し,争う。原告の退職は形式的にも実質的にも本人都合退職であり,被告の退職金支給額は適切である。
(3) 被告の不法行為の成否
(原告)
被告は,原告に対し,上記(1)で主張するような時間外労働をさせながら,一方で労働基準法等に違反してほとんどこれに対する時間外勤務手当を支給しなかった。また,被告のA所長は,このような時間外勤務手当や休日勤務手当の支払状況を知りながら,常日頃,電話やファックスの処理を迅速にするように何度も原告に指示し,また,平成18年3月25日には原告を非難するなどした。原告はこのような職場環境下で仕事をさせられ,大きな精神的苦痛を受けていた。
原告は長期間,長時間の時間外労働をしても全くといっていいほど手当を支払おうとしない被告で勤務を続けることはできないと考えて退社を決意したのであり,被告の責めに帰すべき重大な事情によって,退社を余儀なくされたものである。
被告のこの行為は,原告に対する不法行為を構成する。
(被告)
原告の主張は否認し,争う。
被告は時間外勤務手当の取扱について,あくまで就業規則,給与規則に基づき処理していたものであって,残業の必要性があれば原告から上司に申請して許可を得ればいつでも時間外勤務手当は支給されることになっており,原告自身もこのことを十分承知していながら,在職中は,このような申請をして時間外勤務手当の請求権を一切行使しなかった。したがって,仮に被告に残業手当の一部不支給の事実があったとしても,そのことが直ちに原告に対する不法行為となるものではない。
(4) (仮に被告に不法行為が成立するとして)これによる原告の損害
(原告)
被告の上記不法行為により,原告は,以下の損害を被った。よって,原告は被告に対し,不法行為の損害賠償請求権に基づき,損害額合計475万2314円及びいずれも不法行為後である下記アの金額に対する平成16年9月1日から,下記イの金額に対する平成18年4月21日からの遅延損害金の支払を求める
(請求4)。
ア原告が受け取るべきであった平成15年7月15日から平成16年7月14日までの時間外勤務手当相当額合計235万2314円イ慰謝料200万円ウ弁護士費用40万円
(被告)
原告の主張は否認し,争う。
原告主張の損害額のうち,時間外勤務手当相当額は既に労働基準法115条により消滅した労働債権を損害賠償に切り替えて請求するものであり,同法の短期消滅時効制度の趣旨を没却するもので許されない。
また,慰謝料についても,被告が原告請求の慰謝料に値するような不法行為をした事実は全くない。

第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告は,その主張するような時間外勤務をしたか)について
(1) 弁論の全趣旨及び証拠(原告本人,証人A,甲1,6,8,9,12,乙9ないし38,44,46,48,49)によれば,原告が,平成17年4月26日から平成18年4月14日までの間,その主張するような時間外勤務をした事実を認めることができる。また,弁論の全趣旨並びに証拠(上記掲記のもの及び乙42,43,45)によれば,平成17年4月25日以前の時間外勤務も原告主張のとおりのものであったことを合理的に推認することができる。
原告は,卸売りの営業担当者であって,その取引の相手方も小売りの営業担当者であるところ(弁論の全趣旨,原告本人,甲1),相手方もその職種の性質上,本来の勤務時間中は外回りに出ていることも多いと推認されるから,やむを得ず,営業上の折衝やその事後手続が時間外に及ぶことは優に推認できるところであり,これに関する原告の主張及び供述は首肯できるものである。
(2) 被告は,原告主張の時間外勤務について,一部認めるもの(労働基準監督署から指導を受けた平成16年6月以降の合計881時間)以外についてはこれを否認し,原告は,基本的に出勤簿記載の時間に退社していたと主張する。
しかしながら,証拠(原告本人,証人A,甲1,12)によれば,当時,被告(広島営業所)において,申告して残業扱いとしない時間外勤務が半ば恒常化していたことが認められ(証人Aも,かつて被告の営業担当として執務していた当時,通常業務で残業した際に残業申請書を出して時間外勤務手当を受領する手続をしていなかったことを認めている。被告において,必要な時間外勤務をした場合には,きちんと手続をして手当を支給[受給]するという雰囲気がなかったことは明らかである。),内部の出勤簿等の記載は原告の時間外勤務の状況を正確に記載したものであったとは認められない。
なお,始業前の掃除など本来の業務内容に属しないものであっても,職場の執務のためにその準備行為として行われ,多くの従業員が日常的に行っているものについては,管理者がこれが任意に行われるもので給与支払の対象とならないことを明示しているなどの事情のない限り,勤務時間の一部と認めるのが相当であるところ,被告において,当時の被告広島営業所においては,所長その他の上司が,少なくとも従業員による掃除を当然のこととして黙認していたことがうかがわれ,この時間についても労働時間と認めるべきである。
また,取引先との親睦行事についても,これが被告の営業活動の一環としてなされたものであることは明らかであって,建前上参加が任意であるとしても,営業担当者である原告が特別な理由もなく参加を拒否することは事実上困難であると認められるから,原告が参加した以上,勤務時間から排除することは相当でない。
その他上記(1)の認定を覆すに足りる証拠はない。
(3) 次に,被告は,被告(広島営業所)における時間外勤務の運用は,上長の命令または従業員の申請に基づいて認めており,上長の命令や原告の申請にかかる時間外勤務については手当を支給しているが,原告は,本件で主張する時間外勤務について申請を出していない旨主張する。
確かに,原告は,時間外勤務の一部について申請書を提出し,手当を受給しているものもあることが認められる。しかしながら,上記摘示の被告内部の雰囲気及び営業担当という原告の業務内容などからすれば,全ての時間外勤務を逐一申告して上長の確認を受けることなどは実態とかけ離れた建前上の運用というほかはなく,原告が申告手続をしなかったからといって,それが自己都合による残留に過ぎないとみることはできないというべきである。
(4) 以上によれば,上記(1)認定(原告主張)の時間外勤務は全て割増賃金支給の対象となるものと認められ,これにかかる時間外勤務手当(平成16年7月15日から退職までのもの)の支払を求める原告の請求1は理由がある。
(5) 付加金について
ア原告は,その請求にかかる時間外勤務手当のうち,374万6162円については労働基準法に違反するものであるとして,同法114条に基づき,同額の付加金の支払を求めている。
イそこで検討するに,労働基準法114条の付加金制度は,使用者の同法違反行為に対して一種の制裁を科すことで,使用者による同法の規定の遵守,労働法上の債務の履行を確保し,労働者の権利の保護を図ることを目的とするものであると解され,同条が付加金の支払について義務的とせず,裁判所の裁量を認めていることなどからすれば,裁判所は,使用者が同法に違反するに至った経緯や動機,違反の態様や程度,これにより労働者の被った損害などを総合考慮して支払を命じるか否か及び金額を定めるべきものと解される。
ウ本件において,労働基準法に違反する時間外勤務手当額が原告主張のとおりであることは上記認定事実及び前掲証拠から認めることができるが,一方,被告においては,制度上時間外勤務の申告手続が定められていたが,原告は,本件で請求する時間外勤務手当に対応する時間外勤務については在職中その申請をしていなかったこと,原告は営業職であり,本人の申告がなければ,使用者たる被告(原告の上司である管理者)において,原告がどの程度時間外勤務をしているか及びそれが業務上必要なものであったか否かについて明確には把握しがたい事情があったものと認められること,原告が本件で主張している時間外勤務の中には,始業前の掃除や休憩時間の取扱いなど賃金支払の対象となる時間外勤務といえるかについて解釈上必ずしも一義的に決定しがたいものも含まれていたことなどが認められる。
上記の諸事情を総合考慮すれば,本件において,結果的に労働基準法違反と認められるものの全額について被告に同額の付加金支払を命じることには躊躇を覚えざるを得ず,本件においては,原告が請求する付加金額(請求2)の2分の1である187万3081円についてのみ,付加金支払を命じるのを相当と認める。

2 争点(2)(原告の退職は,本人都合退職であったか)について
(1) 原告は,形の上では自ら退職願を提出して退職したものであっても,その実質は被告が違法に時間外勤務手当を支払わず,原告に退職を余儀なくさせたものであるから,原告の退職は自己都合退職として扱うべきではないとし,退職金差額の請求をしている。
(2) そこで検討するに,弁論の全趣旨及び証拠(原告本人,証人A,甲1,乙4,6,48)によれば,以下の事実を認めることができる。
ア原告作成提出の本件退職願(乙4)には,明確に「一身上の都合により」退職する旨が明記されている。また,離職理由として同趣旨が記載された離職証明書(乙6)についても原告はその内容に異議を述べていない。
イ原告の退職は,原告からの申出によるものであり,上司である所長のAも,原告から申入れを受けるまで原告が退職の意思を有していることを把握していなかった。
ウ原告からの退職申出に対し,Aはこれを慰留したが,原告の退職意思は固く,翻意することはなかった。
エ原告は,退職申出以前において,被告による時間外勤務手当の不支給が退職決意の理由であると明らかに表明した事実はない。
オ被告において,原告をいわゆるリストラ対象者などとして扱い,原告が退職せざるを得ないように原告に対してのみことさら不利益取扱いをするなどの仕打ちをしたような事実はうかがわれない。
(3) 上記認定の事実関係などからすれば,原告の退職申出当時,客観的に見て原告がその後も被告での勤務を継続することが不可能ないし困難な事情があったとは認められず,原告の退職申出はあくまでも原告の自由意思による自己都合退職であったと認めることができる。この認定を覆すに足りる証拠はない。
したがって,内部規定に基づいて,会社都合退職の場合の100分の80相当の退職金を支給した被告の対応は相当であり,原告の退職金差額請求(請求3)は理由がない。

3 争点(3)(被告の不法行為の成否)について
原告は,被告が違法に時間外勤務手当を支給せず,また,上司である所長のAが原告を否認するなどして原告に退職を余儀なくさせたことが,原告に対する不法行為を構成すると主張する。
しかしながら,時間外勤務手当を支給しないことはそれ自体労働契約上の債務不履行ではあるが,上記1,2摘示の事情などからして,被告が原告に退職を余儀なくさせるために時間外手当を支給しなかったような事情は認められないことや,原告も制度上の時間外勤務の申告書を提出していないことなどに照らせば,被告の時間外勤務の不支給が契約上の債務不履行の範囲を超え,原告に対する不法行為(慰謝料その他の損害賠償の根拠となるもの)を構成するとまでは認められない。
また,平成18年3月25日のA所長による原告への叱責も,若干言葉が激烈になった点はあるにしても,原告の名誉を棄損したり,社会通念上相当と認められる範囲を超えて原告を侮辱するような内容を含むものであったとは認められず,あくまでも上司の部下に対する業務上の注意叱責の範囲内であり,不法行為を構成するものとまではいえない。
更に,上記2摘示のとおり,原告の退職はあくまでも自由意思による自己都合退職と認められるものであって,被告の時間外手当の不支給との間に相当因果関係は認められない。
以上のとおり,被告に不法行為の成立は認められないから,原告のこれに基づく損害賠償請求(請求4)は理由がない。

4 以上によれば,原告の請求1は理由があるから認容し,請求2については上記1摘示の範囲で理由があるからその限度で認容し,請求3及び4は理由がないから棄却することとする。
広島地方裁判所民事第3部
裁判官曳野久男

 

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