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最高裁昭和52年1月31日第二小法廷判決・ 集民第120号23頁

2016-12-16

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主    文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理    由

上告代理人隅田誠一の上告理由第一及び第二について

就業規則所定の懲戒事由にあたる事実がある場合において、本人の再就職など将来を考慮して、懲戒解雇に処することなく、普通解雇に処することは、それがたとえ懲戒の目的を有するとしても、必ずしも許されないわけではない。そして、右のような場合に、普通解雇として解雇するには、普通解雇の要件を備えていれば足り、懲戒解雇の要件まで要求されるものではないと解すべきである。

本件についてみると、原審が確定した事実によれば、被上告人は、上告会社の編成局報道部勤務のアナウンサーであつたところ、(一)昭和四二年二月二二日午後六時から翌二三日午前一〇時までの間フアツクス担当放送記者Dと宿直勤務に従事したが、二三日午前六時二〇分頃まで仮眠していたため、同日午前六時から一〇分間放送されるべき定時ラジオニユースを全く放送することができなかつた(以下「第一事故」という。)、(二)また、同年三月七日から翌八日にかけて、前同様Eと宿直勤務に従事したが、寝過したため、八日午前六時からの定時ラジオニユースを約五分間放送することができなかつた(以下「第二事故」という。)、(三)右第二事故については、上司に事故報告をせず、同月一四、五日頃これを知つたF部長から事故報告書の提出を求められ、事実と異なる事故報告書を提出した、そこで、上告会社は、被上告人の右行為は就業規則所定の懲戒事由に該当するので懲戒解雇とすべきところ、再就職など将来を考慮して、普通解雇に処した、というのであり、なお、上告会社の就業規則一五条には、普通解雇の定めとして、「従業員が次の各号の一に該当するときは、三〇日前に予告して解雇する。但し会社が必要とするときは平均賃金の三〇日分を支給して即時解雇する。ただし労働基準法の解雇制限該当者はこの限りでない。一、精神または身体の障害により業務に耐えられないとき。二、天災事変その他巳むをえない事由のため事業の継続が不可能となつたとき。三、その他、前各号に準ずる程度の巳むをえない事由があるとき。」と定められていた、というのである。右事実によれば、被上告人の前記行為は、就業規則一五条三号の普通解雇事由にも該当するものというべきである

しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。本件においては、被上告人の起こした第一、第二事故は、定時放送を使命とする上告会社の対外的信用を著しく失墜するものであり、また、被上告人が寝過しという同一態様に基づき特に二週間内に二度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、更に、第二事故直後においては卒直に自己の非を認めなかつた等の点を考慮すると、被上告人に非がないということはできないが、他面、原審が確定した事実によれば、本件事故は、いずれも被上告人の寝過しという過失行為によつて発生したものであつて、悪意ないし故意によるものではなく、また、通常は、フアツクス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになつていたところ、本件第一、第二事故ともフアツクス担当者においても寝過し、定時に被上告人を起こしてニユース原稿を手交しなかつたのであり、事故発生につき被上告人のみを責めるのは酷であること、被上告人は、第一事故については直ちに謝罪し、第二事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと、第一、第二事故とも寝過しによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと、上告会社において早朝のニユース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかつたこと、事実と異なる事故報告書を提出した点についても、一階通路ドアの開閉状況に被上告人の誤解があり、また短期間内に二度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、右の点を強く責めることはできないこと、被上告人はこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと、第二事故のフアツクス担当者Eはけん責処分に処せられたにすぎないこと、上告会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかつたこと、第二事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること、等の事実があるというのであつて、右のような事情のもとにおいて、被上告人に対し解雇をもつてのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。したがつて、本件解雇の意思表示を解雇権の濫用として無効とした原審の判断は、結局、正当と認められる。
諭旨は、ひつきよう、右判示と異なる見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

同第三について

本訴においては、被上告人に対する解雇の効力、すなわち被上告人が上告会社の従業員たる地位を有するかどうかが争われ、被上告人の勤務場所がどこであるか、また被上告人の勤務場所が雇用契約の内容とされていたかどうかについては、当事者間で争われた形跡がなく、その確定がされていないのであり、このような本訴の経過に照らせば、原判決が維持した第一審判決の主文第一項は、被上告人が上告会社の従業員たる地位を有することを確認したにとどまり、所論の部分は、本件においては、単に被上告人の解雇時における所属を便宜的に付記したにすぎず、法律上、特段の意味をもつものではないと解すべきである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    栗   本   一   夫
裁判官    岡   原   昌   男
裁判官    大   塚   喜 一 郎
裁判官    吉   田       豊
裁判官    本   林       讓

 

 

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