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最高裁昭和54年7月20日第二小法廷 判決・民集第33巻5号582頁

2016-12-24

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主    文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする

理    由

上告代理人和田良一、同西迪雄、同渡辺修、同竹内桃太郎、同成富安信、同美勢
晃一の上告理由一について

企業が大学の新規卒業者を採用するについて、早期に採用試験を実施して採用を内定する、いわゆる採用内定の制度は、従来わが国において広く行われているところであるが、その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきである。したがつて、具体的事案につき、採用内定の法的性質を判断するにあたつては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある。
そこで、本件についてみると、原審の適法に確定した事実関係は、おおむね次のとおりである。すなわち、上告人は、綜合印刷を業とする株式会社であるが、昭和四三年六月頃、D大学に対し、翌昭和四四年三月卒業予定者で上告人に入社を希望する者の推せんを依頼し、募集要領、会社の概要、入社後の労働条件を紹介する文書を送付して、右卒業予定者に対して求人の募集をした。被上告人は、昭和四〇年四月D大学経済学部に入学し、昭和四四年三月卒業予定の学生であつたが、大学の推せんを得て上告人の右求人募集に応じ、昭和四三年七月二日に筆記試験及び適格検査を受け、同日身上調書を提出した。被上告人は、右試験に合格し、上告人の指示により同月五日に面接試験及び身体検査を受け、その結果、同月一三日に上告人から文書で採用内定の通知を受けた。右採用内定通知書には、誓約書(以下「本件誓約書」という。)用紙が同封されていたので、被上告人は、右用紙に所要事項を記入し、上告人が指定した同月一八日までに上告人に送付した。本件誓約書の内容は、 「この度御選考の結果、採用内定の御通知を受けましたことについては左記事項を確認の上誓約いたします

一、本年三月学校卒業の上は間違いなく入社致し自己の都合による取消しはいたしません
二、左の場合は採用内定を取消されても何等異存ありません
① 履歴書身上書等提出書類の記載事項に事実と相違した点があつたとき
② 過去に於て共産主義運動及び之に類する運動をし、又は関係した事実が判明したとき
③ 本年三月学校を卒業出来なかつたとき
④ 入社迄に健康状態が選考日より低下し勤務に堪えないと貴社において認められたとき
⑤ その他の事由によつて入社後の勤務に不適当と認められたとき」
というものであつた。ところで、D大学では、就職について大学が推せんをするときは、二つの企業に制限し、かつ、そのうちいずれか一方に採用が内定したとき、直ちに未内定の他方の企業に対する推せんを取消し、学生にも先に内定した企業に就職するように指導を徹底するという、「二社制限、先決優先主義」をとつており、上告人においても、昭和四四年度の募集に際し、少なくともD大学において右の先決優先の指導が行われていたことは知つていた。被上告人は、上告人から前記採用内定通知を受けた後、大学にその旨報告するとともに、大学からの推せんを受けて求人募集に応募していた訴外E工業株式会社に対しても、大学を通じて応募を辞退する旨通知し、大学も右推せんを取り消した。その後、上告人は、昭和四三年一一月頃、被上告人に対し、会社の近況報告その他のパンフレツトを送付するとともに、被上告人の近況報告書を提出するよう指示したので、被上告人は、近況報告書を作成して上告人に送付した。ところが、上告人は、昭和四四年二月一二日、突如として、被上告人に対し、採用内定を取り消す旨通知した。この取消通知書には取消の理由は示されていなかつた。被上告人としては、前記のとおり上告人から採用内定通知を受け、上告人に就職できるものと信じ、他企業への応募もしないまま過しており、採用内定取消通知も遅かつた関係から、他の相当な企業への就職も事実上不可能となつたので、大いに驚き、大学を通じて上告人と交渉したが、何らの成果も得られず、他に就職することもなく、同年三月D大学を卒業した。なお、上告人の昭和四四年度大学卒新入社員については、同月初旬に入社式の通知がなされ、同時に健康診断書の提出が求められた。右入社式は、同月三一日に大学新卒の採用者全員を東京に集めて行われたが、式典は一時間余りで、社長の挨拶、先輩の祝辞、新入社員の答辞、役員の紹介、社歌の合唱等がなされた。式典に集つた新入社員は、その日、式典終了後、卒業証明書、最終学年成績証明書、家族調書及び試用者としての誓約書を提出し、東京で約二週間の導入教育を受けたのち、上告人の各事業部へ配置され、若干期間の研修の後それぞれの労務に従事し、上告人の定める二か月の試用期間を過ぎた後の同年六月下旬に、更に本採用者としての誓約書を保証人と連署して提出し、社員としての辞令書の交付を受けた。上告人における大学新規卒業新入社員の本採用社員としての身分取得の方法は、昭和四四年度の前後を通じて、大体右のようなものであつた。
以上の事実関係のもとにおいて、本件採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかつたことを考慮するとき、上告人からの募集(申込みの誘引)に対し、被上告人が応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する上告人からの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であつて、被上告人の本件誓約書の提出とあいまつて、これにより、被上告人と上告人との間に、被上告人の就労の始期を昭和四四年大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の五項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当とした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。
論旨は、採用することができない。

同二について

本件採用内定によつて、前記のように被上告人と上告人との間に解約権留保付労働契約が成立したものと解するとき、上告人が昭和四四年二月一二日被上告人に対してした前記採用内定取消の通知は、右解約権に基づく解約申入れとみるべきであるところ、右解約の事由が、社会通念上相当として是認することができるものであるかどうかが吟味されなければならない。
思うに、わが国の雇用事情に照らすとき、大学新規卒業予定者で、いつたん特定企業との間に採用内定の関係に入つた者は、このように解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入つた者の試用期間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべきである。
ところで、試用契約における解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され、今日における雇用の実情にかんがみるときは、このような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるが、他方、雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき、留保解約権の行使は、右のような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和四三年(オ)第九三二号同四八年一二月一二日大法廷判決、民集二七巻一一号一五三六頁)。右の理は、採用内定期間中の留保解約権の行使についても同様に妥当するものと考えられ、したがつて、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。これを本件についてみると、原審の適法に確定した事実関係によれば、本件採用内定取消事由の中心をなすものは「被上告人はグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかつた。」というのであるが、グルーミーな印象であることは当初からわかつていたことであるから、上告人としてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が出なかつたので内定を取り消すということは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきであり、右のような事由をもつて、本件誓約書の確認事項二、⑤所定の解約事由にあたるとすることはできないものという
べきである。
これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。
論旨は、採用することができない。

同三について

所論の点に関する原審の判断は、原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    木   下   忠   良
裁判官    大   塚   喜 一 郎
裁判官    栗   本   一   夫
裁判官    塚   本   重   頼
裁判官    鹽   野   宜   慶

 

 

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