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最高裁昭和62年7月17日第二小法廷判決・  民集第41巻5号1350頁

2014-04-17

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主    文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理    由

上告代理人山本政明、同大川隆司、同塚原英治、同安原幸彦、同勝山勝弘の上告理由について

一 企業ないし事業場の労働者の一部によるストライキが原因で、ストライキに参加しなかつた労働者が労働をすることが社会観念上不能又は無価値となり、その労働義務を履行することができなくなつた場合、不参加労働者が賃金請求権を有するか否かについては、当該労働者が就労の意思を有する以上、その個別の労働契約上の危険負担の問題として考察すべきである。このことは、当該労働者がストライキを行つた組合に所属していて、組合意思の形成に関与し、ストライキを容認しているとしても、異なるところはない。ストライキは労働者に保障された争議権の行使であつて、使用者がこれに介入して制御することはできず、また、団体交渉において組合側にいかなる回答を与え、どの程度譲歩するかは使用者の自由であるから、団体交渉の決裂の結果ストライキに突入しても、そのことは、一般に使用者に帰責さるべきものということはできない。したがつて、労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となつた場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもつてことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失うと解するのが相当である。
ところで、労働基準法二六条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に使用者が平均賃金の六割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行 を強制する手段として附加金や罰金の制度が設けられている(同法一一四条、一二〇条一号参照)のは、右のような事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであつて、同条項が民法五三六条二項の適用を排除するものではなく、当該休業の原因が民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである(最高裁昭和三六年(オ)第一九〇号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六五六頁、同昭和三六年(オ)第五二二号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六八四頁参照)。そして、両者が競合した場合は、労働者は賃金額の範囲内においていずれの請求権を行使することもできる。したがつて、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合において、賃金請求権が平均賃金の六割に減縮されるとか、使用者は賃金の支払いに代えて休業手当を支払うべきであるといつた見解をとることはできず、当該休業につき休業手当を請求することができる場合であつても、なお賃金請求権の存否が問題となりうるのである。

二 そこで、本件ストライキのため休業を命じられた期間中の上告人らの賃金請求権の有無について検討するに、原審の適法に確定した事実関係は、おおむね次のとおりである。

1 被上告会社は、民間定期航空運輸事業を営むアメリカ法人で、東京のほか大阪及び沖縄に各営業所を有している。上告人らは、被上告会社の従業員で、D労働組合(以下「本件組合」という。)に所属し、本件ストライキ当時原判決控訴人目録1ないし10記載の上告人らは沖縄営業所に、同目録11ないし17記載の上告人らは大阪営業所にそれぞれ勤務していた。

2 被上告会社は、羽田地区においてグラウンドホステス業務及び搭載業務に訴外G株式会社(以下「G」という。)の労働者を従事させ、右労働者と自己の従業員とを混用していたが、本件組合は、かねてから右労務形態は労働者供給事業の禁止について規定した職業安定法四四条に違反するものであると非難しており、昭和四九年九月ころからはG派遣のグラウンドホステスの正社員化と搭載課業務下請導入中止を要求するようになつた。

3 これに対し、被上告会社は、グラウンドホステスの正社員採用については試験を経たうえで行う方針である旨回答したが、本件組合はあくまでも無試験全員採用を要求して、同年一〇月一六日から一八日までの間第一次ストライキを行つた(この件については、のちに被上告会社が譲歩し、右グラウンドホステスは同年一二月三一日をもつて全員正社員として採用されることとなつた。)。

4 更に被上告会社は、同年一〇月二二日、社内文書によつて「一一月一日より全搭載課員は一つのグループに統合する。」との改善案を発表し、右案の趣旨は、従来貨物課及び搭載課に配置されていたG派遣の搭載要員をそれぞれの課から除外し、それらの者は被上告会社がGに売却する機材を使用して特定の便の搭載業務を請け負い、貨物課及び搭載課に配属されていた被上告会社の従業員たる搭載係員を一つのグループに統合することを意味し、これによつて職業安定法違反はなくなると説明した。

5 しかし、本件組合は、右改善案によつても職業安定法違反の状態は除去されないとして、搭載係員の統合撤回と機材売却中止を要求したが、被上告会社は同年一一月一日から右案を実施すると主張した。そこで、本件組合は、これを阻止するため、東京地区の組合員をもつて、右一一月一日から第二次ストライキ(本件ストライキ)を決行し、同組合員らは、羽田空港内の被上告会社の業務用機材約七〇台をハンガー(格納家屋)に持ち去つて、これらを占拠した。本件ストライキは同年一二月一五日まで続いた。

6 被上告会社においては、その当時の飛行便の運航予定は、旅客便については、西回り(アメリカから東京を経由して韓国・東南アジアへ向う便)及び東回り(右の逆)が毎日各四便で、そのうち大阪を経由するのは一日各一便、沖縄を経由するのは一週各三便であり、貨物便については、月曜日から土曜日までの間西回り及び東回りが毎日各一便で、そのうち大阪を経由するのは右の間各四便であつたが、組合員らによる前記機材占拠の結果羽田空港における地上作業が困難となつたため、予定便数の変更と路線変更のやむなきに至り、貨物便については同年一一月一日から全面的に運航を中止し、旅客便については同月中旬から主要路線の一日四便に減らし、その代わりに同年一二月一一日まで許可を得て、大阪・台北間の臨時便を追加運航することとした。

7 右運航スケジユール変更の結果、沖縄を経由するのは週一便のみとなつたが、その便も、運航時刻の関係及び沖縄の乗客の利用状況の点から、沖縄を経由しないこととなり、同年一一月一二日以降は沖縄を経由する便は全くなくなつた。そこで、被上告会社は、管理職でない原判決控訴人目録1ないし10記載の上告人らに対し、その就労を必要としなくなつたとして同月一四日から同年一二月一五日までの間休業を命じた。また、東京・大阪経由の旅客便は原則として大阪寄港をとり止めることとなり、前記大阪・台北間の臨時便も許可の期限を経過した同年一二月一二日以降は運航が許されなくなつた。そこで、被上告会社は、管理職でない原判決控訴人目録11ないし17記載の上告人らに対し、その就労を必要としなくなつたとして右同日から同月一五日までの間休業を命じた。
右事実関係によれば、被上告会社は、Gの労働者と被上告会社の従業員との混用状態が職業安定法に違反すると主張する本件組合からの要求の趣旨を一部受け入れて、G派遣のグラウンドホステスの正社員採用の方針を回答し、更にGの労働者と被上告会社の従業員との分離及びGに対する機材の売却等の改善案を発表し、これによつて職業安定法違反はなくなると説明したのであるが、本件組合はこれに承服せず、あくまでも搭載係員の統合撤回及び機材売却中止という要求の貫徹を目指して本件ストライキを決行したというのであるから、本件において、被上告会社が不当労働行為の意思その他不当な目的をもつてことさら本件ストライキを行わしめたなどの前記特別の事情がないことは明らかである。そして、前記休業を命じた期間中飛行便がほとんど大阪及び沖縄を経由しなくなつたため、被上告会社は管理職でない上告人らの就労を必要としなくなつたというのであるから、その間上告人らが労働をすることは社会観念上無価値となつたといわなければならない。そうすると、それを理由に被上告会社が右の期間上告人らに対し休業を命じたため、上告人らが就労することができず、その労働義務の履行が不能となつたのは、被上告会社の「責ニ帰スヘキ事由」によるものということはできず、上告人らは右期間中の賃金請求権を有しないこととなる。

三 以上によれば、原判決には、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は賃金の支払に代えて休業手当を支払うべきこととなり、本件において被上告会社が休業を命じ、上告人らが就労しなかつた以上、賃金請求権の存否は問題とならず、上告人らの本件賃金請求は主張自体失当であるとした点において、法令の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえないが、本件ストライキのため休業を命じられた期間中上告人らは賃金請求権を有しないとした原審の判断は結論において正当であるから、右違法は原判決の結論に影響を及ぼさない。論旨は、結局のところ、採用することができない。
よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全 員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    島   谷   六   郎
裁判官    牧       圭   次
裁判官    藤   島       昭
裁判官    香   川   保   一
裁判官    林       藤 之 輔

 

 

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