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最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決・集民第197号75頁

2014-03-25

主    文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理    由

上告代理人松本建男、同在間秀和、同竹下政行、同中島光孝、同鈴木宏一、同仙谷由人、同有馬毅、同美奈川成章の上告理由第一について

一 労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

二 原審の確定したところによれば、(一) 昭和四八年六月当時、上告人ら(上告人A1の関係においては、以下、同上告人訴訟被承継人A2のことを上告人という。)は、被上告人に雇用され、L造船所において就業していた、(二)右当時、被上告人のL造船所の就業規則は、上告人らの所属する一般部門の労働時間を午前八時から正午まで及び午後一時から午後五時まで、休憩時間を正午から午後一時までと定めるとともに、始終業基準として、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、午前の終業については所定の終業時刻に実作業を中止し、午後の始業に間に合うよう作業場に到着し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定め、さらに、始終業の勤怠把握基準として、始終業の勤怠は、更衣を済ませ始業時に体操をすべく所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準として判断する旨定めていた、(三) 右当時、上告人らは、被上告人から、実作業に当たり、作業服のほか所定の保護具、工具等(以下「保護具等」という。)の装着を義務付けられ、右装着を所定の更衣所又は控所等(以下「更衣所等」という。)において行うものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった、(四) 上告人らは、昭和四八年六月一日から同月三〇日までの間、(1) 午前の始業時刻前に、① 所定の入退場門から事業所内に入って更衣所等まで移動し、② 更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、(2) 午前の終業時刻後に作業場又は実施基準線(被上告人が屋外造船現場作業者に対し他の作業者との均衡を図るべく終業時刻にその線を通過することを認めていた線)から食堂等まで移動し、また、現場控所等において作業服及び保護具等の一部を脱離するなどし、(3) 午後の始業時刻前に食堂等から作業場又は準備体操場まで移動し、また、脱離した作業服及び保護具等を再び装着し、(4) 午後 の終業時刻後に、① 作業場又は実施基準線から更衣所等まで移動して作業服及び保護具等を脱離し、② 手洗い、洗面、洗身、入浴を行い、また、洗身、入浴後に通勤服を着用し、③ 更衣所等から右入退場門まで移動して事業所外に退出した、(五) 上告人らは、被上告人から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗身を行うことを義務付けられてはおらず、また、特に洗身をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかった、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。

三 【要旨一】右事実関係によれば、右二(四)(1)①及び(4)③の各移動は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができないから、各上告人が右各移動に要した時間は、いずれも労働基準法上の労働時間に該当しない。また、上告人らは、被上告人から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗身等を行うことを義務付けられてはおらず、特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったというのであるから、上告人らの洗身等は、これに引き続いてされた通勤服の着用を含めて、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができず、各上告人が右二(四)(4)②の洗身等に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当しないというべきである。他方、上告人らは、被上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられていたなどというのであるから、右二(四)(1)②及び(4)①の作業服及び保護具等の着脱等は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、右着脱等に要する時間は、それが社会通念上必要と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当するというべきである。しかしながら、【要旨二】上告人らの休憩時間中における作業服及び保護具等の一部の着脱等については、使用者は、休憩時間中、労働者を就業を命じた業務から解放して社会通念上休憩時間を自由に利用できる状態に置けば足りるものと解されるから、右着脱等に要する時間は、特段の事情のない限り、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえず、各上告人が右二(四)(2)及び(3)の各行為に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえない。以上と同旨の原審の判断は、是認するに足りる。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、所論引用の各判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井
正雄 裁判官 大出峻郎)

 

 

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